愛媛大学法文学部 創立50周年記念誌
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99Ehime University Faculty of Law and Letters 50th「法文」で学ぶということ法文学部人文学科 4回生 井町 菜月 「法文」学部、この響きは一般的に馴染みのないものなのでしょう。愛媛県外で「法文学部です」と自己紹介をするとまず聞き返されます。 法文学部には社会科学系の先生と人文学系の先生が在籍されていて、学生は広い学問領域を自由に学ぶことができます。とはいえ、入学時から人文学科所属の私は総合政策学科の授業をほとんど履修してきませんでした。人文と総政、同じ学部でありながら何となく棲み分けがあるような、そんな印象を入学時から抱いていました。 そんな私の転機は3回生の前期です。指導教員である太田裕信先生の授業でドイツ系ユダヤ人の政治哲学者、ハンナ・アーレントの『人間の条件』を講読することになりました。初めて触れる彼女の思想は決して易しくはなく、とても骨の折れる授業でした。前期も終わりかけの頃、この授業のことを世間話の延長で総合政策学科の友人に話したことがあります。この時友人とアーレントの話題でとても盛り上がり、気づけば一緒にアーレントについて勉強しよう、という話になっていました。友人はさっそく自分の指導教員である丹下晴喜先生に相談してくれました。そこからの展開は速く、法文学部自主ゼミナール『読書の会』が結成され、後期の木曜日6限に勉強会が始まりました。 勉強会のメインはアーレントの著作の内容が簡潔に紹介されている『ハンナ・アレント』(川崎修・講談社)を読み進めていくことでした。ありがたいことに丹下先生が勉強会を主導してくださり、メインテクストに沿った多数の映像資料や文字資料、図や表を用意してくださいました。また、例えば映画『ハンナ・アーレント』(監督・脚本:マルガレーテ・フォン・トロッタ)やアーレントの代表作『全体主義の起源』が取り上げられた『100分de名著』を観た番外編もありました。これらを通して私は彼女の思想ばかりでなく、それを構成した彼女自身の生き方や時代背景など多くのことを学ぶことができました。そしてこの勉強会を通して、彼女の思想が現代に生きる我々にも重要な問題提起をしていることに気付きました。 勉強会には倫理思想史を学ぶ私と丹下先生の指導学生である友人のほかに、ドイツ文学や西洋史を専攻する学生が集まりました。他の分野を専門にしている学生と語らう楽しさを教えてくれたのもこの勉強会です。普段は別々の場所にいて、週に1回しか集まらないメンバーに率直な自分の考えを伝える……充実した夜の時間を過ごしました。 社会科学の視点も人文学の視点も学べる自主的な学びの場。この環境に身を置けたことで、私はより以前よりずっと広い世界が見えるようになりました。もし、法学部や文学部に進学していたらこうした環境に出会うことも難しかったのかもしれません。「法文」学部にであったからこそ容易に学問領域を超えた交流ができたのだと思います。 ここで学び始めて3年半が経ちます。気づけば「法文」学部は私にとって、なくてはならない居場所になっていました。勉強会で使用した本とアーレント『人間の条件』。主に『全体主義の起源』の内容を確認した。在学中に原典にもチャレンジ予定

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