愛媛大学法文学部 国際交流報告書2015
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19アメリカ・フィールドワークの概要 2007年度から隔年で実施してきたアメリカ・フィールドワークは、通算5回目を迎えました。(授業として実施したのは2009年以降の4回。)幸いこれまで事故もなく、毎回「何かを学び取った」という充実感を味わってきましたが、今年はとりわけ中身の濃い調査ができたように思います。その理由として、まず第1に、テーマを絞ってしっかりと事前学習を行ったこと、第2に、協力者を通してアメリカでの人脈がうまく築けたことが挙げられます。そして第3に、学生参加者が4人と少人数で、しかも行程の一部でグローバル・スタディーズ・コース(GSC)の同僚である近廣先生が同行してくださるという手厚い指導態勢が実現し、その中で学生たちが非常に頑張ったという経緯がありました。 第1の点については、実は2009年・2011年のフィールドワークでも、アメリカの民族的多様性について学ぶという目的で、ミネソタ州ミネアポリスに住むソマリの人々(内戦の続くソマリアから移民や難民として渡米したアフリカ系イスラーム教徒の人々)と交流しました。ミネアポリスには、「リトル・モガディシュ」とも呼ばれる、アメリカ最大のソマリ族居住区があるのです。しかし、それらは多様な民族のアメリカ人に話を聞く一環であり、ソマリ族やムスリムだけに焦点を当てた調査ではありませんでした。ところが今年は図らずしも、ミネアポリスに住むソマリ族の若者が何人もISIS(イスラム国)に勧誘されて失踪していたという事件がNew York Timesで全米に報道され、大問題となる中でのフィールドワーク実施になりました。ソマリの人々へのインタビューは取り止めるべきではないかと正直悩みましたが、このような困難な時だからこそ彼らの話を聞くことは、今、世界で起きている出来事を理解する上で大きな糧となるのではないかと考え、あえて「アメリカの中のムスリム」をテーマとしました。そしてソマリの人々との交流は確かに、グローバル社会について様々なことを教えてくれたように思います。 しかし実際の聞き取り調査は、第2点目に述べたように、信頼できる協力者の存在なくしては実現しませんでした。愛媛大学に在籍するムスリム留学生のネットワークを通して、最終的にはミネアポリスに住むソマリ族のリーダーの方々や、ミネソタ大学のソマリ族学生にアクセスすることができました。この方たちが我々の訪問目的をよく理解し信頼してくださり、困難な時だからこそ熱心に、聞き取り調査に協力してくださったのです。また、旧知のミネソタ大学教員や現地高校の先生にも大変お世話になりました。 第3点目については、危機管理のために従来から「2人引率体制」を提案していたのですが、その理想的な先例が今回実現したと思います。主引率教員が何かに手を取られて注意が行き届かない時、もう一人の教員が居ることで各段に安全性が高まります。このように充実した態勢の中で、学生4人は本当によく頑張ってくれました。「真面目で優秀だけれども、少し消極的で大人しい」女子学生4人が、自ら行動しなくてはならない「追い詰められた状況」を何度もクリアして、確実に成長したと感じています。 最後に、ご協力してくださったソマリ族の方々、インドネシアやマレーシアからの留学生の方々、高校生との交流をアレンジしてくださったサウスウェスト高校のフレンチ京子先生、ミネソタ大学のHiromi Mizuno先生、ハムライン大学のキャンパスを案内してくれた2人の大学生(Rumi & Haruhiko)とMinaさん、引率の近廣先生、そして資金面でご支援いただいた法文学部総合政策学科、法文学部後援会、愛媛大学国際連携促進事業(GP)に心より感謝いたします。フィールドワーク/海外実習(通年・4単位の授業)の流れ2015年4月~8月:事前学習◆文献やフィルムによる学習 ・アメリカの民族的多様性 ・アメリカにおけるムスリム移民の歴史  ・ソマリアの歴史 ・アメリカにおけるソマリ移民◆愛媛大学に在籍するムスリム留学生への聞き取り調査 ・非ムスリム社会に住むムスリムが直面する問題とは? ・イスラーム教とはどのような宗教か? ・日本での生活で嬉しいことや困ったことは?◆松山東高校SGH課題研究のクラスでプレゼンテーション ・事前学習の内容をまとめて ・これから実施するフィールドワークの計画について2015年9月:フィールドワーク実施2015年10~11月:報告書(本報告書)の作成2015年12月:GSCグローカル・フェスティバルでの発表(同日、報告書を配布。)2016年1月:松山東高校SGH課題研究のクラスでプレゼンテーション ・アメリカでのフィールドワーク体験について ・聞き取り調査の結果について2015年11月~2016年2月:事後学習・研究論文の執筆参加学生の感想(抜粋) 私が初めてアメリカに行って最初に感じたことは、やはり人種の多さである。事前学習の段階で、アメリカの移民がどういったものかをあらかじめ学び、予想はしていたけれども、実際にアメリカの地についてみると本当に様々な人種の人がいて、予想以上だった。自分と似通っている風貌のアジア人っぽい人も、英語を話しながら、アメリカ人として生活しているのかと考えると不思議な気持ちになった。(松本おりえ) 約10日間という短い滞在ではあったが、1日1日が非常に濃く、充実したフィールドワークとなった。ミネソタはもちろん、アメリカへ訪れたのはこれが初めてで、一度行ってみたいと思っていたので、とても楽しめた。フィールドワークの事前学習を通して、アメリカにおける移民やムスリムにつこのような「ライトレイル」(路面電車)で街の中を移動しました。

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