愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.1
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10NEWS LETTER vol.1鈴木 靜ハンセン病隔離政策廃止後における人権保障― 日諾関連法制等に関する調査研究 ― 本研究の目的は,日本のハンセン病隔離政策の過ちを教訓として,その隔離政策廃止後におけるハンセン病差別と元患者らの社会生活の実現と具体策への示唆を提起するものである。国連は,2010年の総会本会議にて採択した「ハンセン病差別撤廃決議」に基づき,2015年を初年度として各国調査を行い,2017年までに差別撤廃のための現実的提案を提示する。これはハンセン病問題が,まさに人権問題として国際的課題になったことを示している。隔離政策廃止後の元患者,回復者らの社会統合に関するこの課題は,日本にとどまらず国際的課題であるとの問題意識から,ノルウェー法制比較を中心にしつつ複数国の隔離政策・法廃止後の調査研究を行う。三年計画で実施予定であり,2016年度はこの一年目に当たる。  研究成果については,学会報告3回行い、主としてここでは民主主義法律家協会学術会議総会について述べる。2016年4月,最高裁判所は,ハンセン病を理由として裁判所外で改定した裁判が違憲かどうかを検証した「特別法廷」調査報告書を公表した。ハンセン病政策に対する司法,法学の責任が,改めて問われたといえよう。この現状を受け,11月に,民主科学法律家協会学術総会のミニシンポにおいて,「ハンセン病問題と法律家の役割~最高裁の「特別法廷」謝罪を受けて~」を企画した。ハンセン病回復者であり患者運動を長年になってきた藤崎陸安氏,法実務家でありハンセン病違憲国賠訴訟,家族賠償訴訟を担当している弁護士内藤雅義氏と,金沢大名誉教授井上英夫氏とともに報告し,問題提起と議論を行った。ほか,日本社会福祉学会にて報告を行った。  海外調査については,ノルウェーおよび韓国調査を行った。2016年3月はノルウェー調査を実施し,最後の患者家族聞き取りと1920年代にハンセン病多発発生の村にて聞き取りを行った。20世紀初頭に「ノルウェーモデル」として名高い人道的な政策の運用実態について,その一端が明らかになった。また韓国の国立小鹿島病院は日本の植民地時代に開設され,2016年に創設百周年記念集会が行われたことから参加し,国際シンポジウムに出席した。あわせて私立ハンセン病病院資料館にて聞き取りを行った。今後二年をかけ,研究目的の達成,実現を目指したい。 I ndividual research 個人研究石坂 晋哉マニプルからみたインパール作戦 本研究の目的は,第二次世界大戦時の「インパール作戦」が,インド・マニプルの人びとにとっていかなる意味を持ったのかを明らかにすることである。インパール作戦とは,1944年,日本軍が,当時イギリス植民地下にあったインド北東部マニプル藩王国の首都インパールの攻略をめざし,連合軍と戦った作戦のことである。よく知られているように,攻略は惨憺たる失敗に終わった。  インパール作戦については,イギリス側,日本側,インド側からの研究の蓄積があり,近年は東南アジア側からの研究も始まっているが,実際に戦闘が行われた現地(現在のインド・マニプル州等)の側からの研究は,ほとんどなされていない。同地域周辺が戦後,長い間,治安状況が悪く,外部者の入域が制限されてきたのが一因である。  マニプル藩王国は19世紀末にイギリスとの戦争に敗北し,英統治下に入ったが,1930年代後半以降,現地では,藩王およびイギリスの支配に対する抵抗運動が行われるようになる。マニプルの自治(独立)をめざすこうした運動のひとつの到達点が,戦後の1948年に行われた普通選挙であった。しかし,議会開催前にその当選者を含む多数の者が逮捕され,結局マニプルは,前年(1947年)に独立していたインドに組み込まれることとなった。その背景として,同地で,戦時中から急速にインド・ナショナリスト勢力が影響力を強めていたという事情があった。その後マニプル独立運動は武装化し,またエスニック集団間の勢力争いが激化し,半世紀以上に渡って同地域では紛争が続くこととなったのである。  インパールでの戦闘において,当時,マニプルの人びとの中には,連合軍に加わった者もいれば,「インド国民軍」に参加し日本側についた者もいたが,どちらにもつかなかった多くの住民も否応なく戦争に巻き込まれたことを,忘れてはならない。同地周辺一帯は戦場となり,また連合軍・日本軍の双方が爆撃を行ったため,民衆にも多大の犠牲が出た。現地でこの戦争が「Japan War」として語り継がれてきた所以である。今後,マニプル大学のイボ・シン教授等と共同研究を組織し,聞き取りを中心とした調査を進めていく予定である。 I ndividual research 個人研究

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