愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.1
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12▲成果発表風景(山口大学会館) 中国語方言の研究NEWS LETTER vol.1幸泉 満夫縄文土器文化崩壊期における北部九州の無文系深鉢に関する予備的研究 ― 製作痕の比較分析を通じた新たな研究シーズの確立に向けて ― 今回研究対象としたのは「文様の無い縄文土器」です。なかでも北部九州は,縄文土器文化崩壊のプロセスを探るうえでとても重要な存在なのですが,これまで,学界では本格的な研究が成されていませんでした。本プロジェクトは,わが国で最も早く土器の無文・粗製化が進行した北部九州を対象に,当該未評価資料群の調査を開始することで,新たな研究シーズの確立と,第一弾の成果公開を目指したものです。  採択後の研究期間内には,九州歴史資料館,福岡市埋蔵文化財センター,北九州市埋蔵文化財調査室,対馬市,唐津市,那珂川町,粕屋町,久山町教育委員会等,各地の博物館,教育委員会所管の文化財関連施設等を積極的に訪れ,未評価資料群の徹底した比較調査を進めることができました。その結果,以下に列記する貴重な成果の数々を収めています。 1. 北部九州における無文系土器出現の背景 2. 同製作痕の多様性と小地域差の解明 3. 無文系深鉢の詳細分類と組列編年 4. 小地域単位での文様系統組成率の解析 5. 韓国櫛目文~無文土器文化の影響の程度  以上の内容については,既に,山口大学開催の第27回中四国縄文研究会にて,北部九州の様相を踏まえた一部成果発表「縄文土器にみるもう一つの地域間交流」を終えています(下写真)。さらに総括として,翌2017年度内における査読付専門誌への論文発表(B5判約60頁)を果たす予定でおります。 I ndividual research 個人研究秋谷 裕幸 中国語の方言はおおざっぱに十種類に分類されます。私が研究しているのは,主として福建省に分布する閩語と呼ばれている方言です。閩語はさらに六種類の下位方言群に分かれますが,その中の閩東方言群の音韻史(発音の歴史)と語彙史(単語の歴史)が現在の研究テーマです。  中国語は甲骨文字から現代にいたるまで膨大な文字・文献資料を有しています。ところがその圧倒的大部分は,各時代の標準語を基礎としています。また,一部の有力な方言を除き,現代中国語方言が文字で書かれることもほとんどありません。閩語をはじめほとんどすべての中国語方言(の口語)は無文字言語であると言ってよいと思います。  ですから中国語方言の研究は,フィールドワークによる言語データ収集およびその整理分析から始めなければなりません。これこそ中国語方言研究における最重要プロセスです。私自身についていうと,研究時間の七~八割はこの作業に費やされています。各種情報から調査地点を選定し,つてをたどり連絡をとった上で現地に赴き調査を実施。帰国後調査データを整理分析,現地を再訪し整理したデータのチェックなり補充なりを行う…この繰り返しです。調査の難しい方言になると,同じ調査地点を六回も七回も訪れなければなりません。  言語データを人前に出すことのできる状態に仕上げてはじめて,音韻史や語彙史の研究に着手することが可能となります。両者は表裏一体の関係にあるので,以下,音韻史研究から簡単な例をひとつ挙げましょう。  文献資料をもたない閩東語の音韻史は「比較方法」という方法論により理論的に複元します。例えば「立つ」という単語は,閩東語諸方言でkhieと発音されたりkhiaと発音されたりします。現在の閩東語諸方言の祖先となるような言語が存在したとするならば,「立つ」は,一案として,khiaiのように発音されていただろうと推定できます。比較方法により推定された発音には絶対年代がありませんし,それが果たして妥当か否かを判定しがたい場合もよくあります。当たらずとも遠からずといったところでしょうか。とはいえ,khiaiを推定することによりkhieとkhiaが同じ語源に由来することを明示できます。また,iaiのような母音連続をieやiaへの単純化により回避した,のような音声変化過程の推定も可能となります。 I ndividual research 個人研究

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