愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.1
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3R esearch unit 愛媛大学研究活性化事業NEWS LETTER vol.1土屋 由香「グローカル地域研究」リサーチユニット 「グローカル地域研究」リサーチユニットは,平成27年度に活動を開始し,本年度愛媛大学リサーチユニットとして採択された。「ローカルとグローバル」をつなぐ複数の事例を比較検討することによって,ローカルな場で培われた知・価値・技術・制度などが,世界各地に広がり根付いていくプロセスを学術的に捉えようとする試みである。グローバリゼーションに関する研究は珍しくないが,その多くはグローバリゼーションを「外から加えられる力」のように見なしている。しかし現実には,20世紀末以降の急激なグローバリゼーションの進展以前から,すでにグローバルとローカルの交差作用のなかで形成され発展してきた「生業」や「技術」や「知」が存在する。本共同研究では,そうした営みに着目し,(1)グローカルな農業(福岡正信の自然農法),(2)グローカルな漁業(マグロ遠洋漁業),(3)グローカルな小売業(シアトル宇和島屋)を具体的事例として取り上げ,計量的手法と質的手法を組み合わせた「混合分析法」も導入してそれらに通底する要因を探る。(HP:http://ipst.adm.ehime-u.ac.jp/glocas/)「シアトル宇和島屋」プロジェクト 本研究は,20世紀初頭に愛媛から米国ワシントン州に渡り,事業を立ち上げ,「アメリカで最も成功した日系スーパーマーケット」と言われるまでになった「宇和島屋」の軌跡をたどることを通して,その成功を支えた要因を明らかにする。平成27年秋に宇和島屋の創業者・森口富士松の次男で事業を継承した富雄氏を愛媛大学に迎えて行ったミーティングからプロジェクトはスタートした。その後,学内で議論を重ね,初めての現地調査として昨年9月にシアトルを訪問。宇和島屋の関係者へのインタビュー,森口氏とかかわりの深い団体からの聞き取り等を実施した。じゃこ天(かまぼこ)製造の技術が創業時の宇和島屋の事業の柱であり,その後は高品質の日本食材,さらにはアジア系食材が調達可能な店としてアメリカ人社会全体に認識されるようになっていったことがわかった。 また,混合分析のための定量的調査に向け,シアトルおよび周辺地域の主だった食料品店の現場確認,店舗リストの収集なども行った。混合分析法の実践としては本年度末に,宇和島屋とその競合店に関する質的調査と並行して,圏内の食料品店及びその利用客に対するアンケート調査を実施する予定である。店舗調査から各店の経営戦略を整理したうえで,それが顧客側の店舗利用状況及び満足度にどのように影響する傾向があるのか,顧客調査から得た情報と照らし合わせて計量分析する。そして,この全体的な傾向の中で,宇和島屋と競合店がそれぞれどのように位置づけられるのか質的調査から得られた情報と合わせて考察する。「福岡正信と自然農法」プロジェクト 福岡正信(1913-2008)が提唱した「不耕起,無肥料,無農薬,無除草」の自然農法が,愛媛からインドや米国など世界各地へと,いかにして広がっていったか,その「グローカル化」のプロセスを明らかにする。本年度は,伊予市の福岡自然農園での農業体験,関係者へのインタビュー,関連文献の収集を行ったが,特に,福岡の著作が他言語に翻訳されていった過程および福岡自身の海外渡航歴の全体像の解明に取り組んだ。『わら一本の革命』(1975年)をはじめとする福岡の著作は25以上の言語に翻訳され出版されている。また福岡は1979年の米国訪問を皮切りに計15か国を訪れていたが,特にインドには3回も渡航していた。インドに福岡を招聘した人物,現地での随行者,翻訳者といったキーパーソンには,ガーンディー主義等の影響を受けた社会活動家が多くみられた。引き続き,自然農法運動のグローカルな展開の解明をめざしたい。「マグロ遠洋漁業」プロジェクト マグロ遠洋漁業者を通して築かれた人と技術のグローバルなネットワークを解明するため,愛媛県・高知県における元マグロ魚船員への聞き取り調査のほか,神奈川県三浦市や米国カリフォルニア州,米国立公文書館などでも調査を実施している。日本とアメリカ,そしてアジア・アフリカの発展途上国も巻き込んだ冷戦期(1950~1960年代)の「グローバル産業」としてのマグロ遠洋漁業とツナ缶産業の実態を明らかにし,Association for Asian Studies(トロント,2017年3月17日)で学会報告を行う。また『中四国アメリカ研究』第8号(2017年3月)にも論文を発表した。

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