愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.1
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4NEWS LETTER vol.1J oint research 共同研究高橋 基泰家・家族・世帯の『家計』に関する日欧地域史的実証対比研究 本研究の目的は,日本および西ヨーロッパ社会において市場経済形成期に登場してくる農民の家・ 家族・世帯の「家計」に着目し,その形成史を明らかにすることである。市場経済化に対応する村落社会を「家計」の形成史として比較分析し,小農理論的把握では捉えきれない近代的市場経済社会出現の複雑なプロセスを復元する。 本研究は,基本的には基盤研究「西洋における『家』の発見:日欧対比のための史的実証研究」(平成22~24年度)の発展型である。そこでは,独自の歴史的存在である 家業・家産・家名の継承をおこなう日本の「イエ」を基点に,家の普遍的要素である直系家族・農業経営組織体・住居を準拠枠として,南仏ピレネー地域における文字通りの「家」の発見に始まり,中欧(ドイツ北部)および北欧(フィンランド)でも日本の「イエ」に匹敵する存在(「大きい家 Grand House」)を 実証した。他方,家的要素の比較的希薄とされているスウェーデンやイギリスでも親族集団が,1つの村落や教区に限定されず,隣接地域全体で実体として検出可能なことも明らかにしている 。 本研究では,「家」が対比のための準拠枠としてある。「家」とは,祖先の祭祀を祀り,家業・家名・家産・家格とを子々孫々まで継承しようする,日本独特の歴史的存在である。そして本特集では「家」の切り盛りのための数量的表現である「家計」に着目する。もしかすると日本の「イエ」は欧米の人,とくに北欧人には理解されないかもしれない。しかし,家計であれば理解されるのである。相続も理解される。家計の相続も理解される。では,なぜ「イエ」が理解されえないのか。そこに謎がある。しかし,歴史的背景を付加することにより理解しようと思えば理解できる。それは北欧とりわけスウェーデンでも,実は20世紀には「家族の土地」を通じて存在する「家」概念があるからである。時期的な違いを超えれば理解にいたる経験をしているのである。 実際に本研究の素地である「家の発見」プロジェクトの進展により,データ蓄積のみならず,国内外のセミナー・ シンポジウムの累積・研究者間交流の緊密化・近接プロジェクトとの提携ならびに隣接学問領域における研究・データの互換を通じ,より多角高次元のアプローチが可能となっている。それとともに,欧州全域とアジアあるいは国別の比較ではなく,地域特性に応じた「地域比較」ないし「地方比較」の視点が新たな問題を投げかける。この点でもヨーロッパ家族史の諸研究成果を活用し,生業の構造(家業・家産)すなわち「家計」に焦点をあて,実証的に比較検討することで新たな問題の解決の糸口を見出せる。そして小農経済を,この新たな視点である,家・家族・世帯の「家計」で見直すのである。 ここまでの研究成果としては,新データを組み入れ分析を進めた結果,日本の上塩尻村における「家計」形成が,当該村落主要同族における各家系の始まりとともに18世紀中葉であることを,導き出している。他方,本プロジェクトと図らずも同時期に進行していた欧州消費経済史研究ネットワークとのタイ・アップが成立し,日本の研究と欧州における研究水準の照合および議論がなされている。その内容は多岐にわたるものの,商品経済の進展を背景に,欧州の家族・世帯では,国・地域毎に偏差がありながらも,総じて消費経済についての具体的変化が時系列上でたどりやすい。▲ 国際公開セミナーの一場面:  ケンブリッジ大学クレイグ・マルドルー博士を講師に▲ 海外共同研究者スパフォドご夫妻達との懇談

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