愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.1
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5NEWS LETTER vol.1J oint research 共同研究西 耕生 愛媛にかかわる文学・芸能・文化資料について「萌芽」から「基礎」へと着実に歩を進めてきた研究の道筋を踏まえ,このたび《文化誌》を標榜する本プロジェクトでは,文化資源として,対象の価値および資料性を商量しながらその具体相を緻密に跡づけ,通時・通域・汎時の観点からそれぞれ再定位を図ろうとする。*「しか寺の根本」伝承一斑西 耕生 『西行聞書』歌注(64)を緒に,天智天皇の命により天智七年正月十七日に大津宮西北の山裾に建てられ(扶桑略記),室町時代にはすでに廃寺となっていた「近江志賀山寺」(万葉集巻第二115番題詞)崇福寺に関する伝承を溯り,辿りなおす。*愛媛の演劇事情 ―明治20年代の松山を中心に―神楽岡 幼子 海南新聞を資料に,明治20年代の松山を中心に愛媛の演劇環境を考察する。明治20年に一番町に開場した新栄座はこれまでの三番町の劇場街からあえてはみ出し,松山の繁華街拡大をねらったものであったが,果たして開場後,歌舞伎芝居を中心に盛んな興行が行われ,見物客が押し寄せることになった。今回はまず開場三年の新栄座の興行実態についてまとめることとする。*安倍能成の随筆 ―1930年代を中心に―中根 隆行 1930年代における安倍能成の随筆を検討する。まず注目されるのは紀行文であるが,それとともに,この時期の随筆には文芸評論や教養的な内容が徐々に目立つようになる。これは何を意味するのか。安倍能成による京城時代最後の数年間の思索を考察する。*等妙寺・歯長寺の本末関係と縁起田中 尚子 等妙寺と歯長寺が本寺・末寺の関係にあることを踏まえた上で,「等妙寺縁起」と「歯長寺縁起」とが相互に補完し合うものとして作成された可能性を探る試みに取り組んでいる。その試みの一齣として,「等妙寺縁起」の導入部および「歯長寺縁起」の終結部を採りあげ,両縁起の成立事情を詳らかにしようとしている。*教材としての『坊っちゃん』 ―英語圏版と韓国版の場合―池 貞姫 外国において,漱石の『坊っちゃん』を基とした学習教材が複数刊行されている。英語圏版の教材は,日本語学習を目的とし,マンガ化したもの,韓国版は論述(論理的思考力・表現力を問う入試科目)対策用である。それぞれ教材として,どのような指標と特徴があるのかを探っていく。*砥部の陶芸と民芸運動張 栄順 愛媛県の砥部は,四国唯一の磁器産地として200年以上の歴史をもっている。砥部の陶芸は,戦後柳宗悦の民芸運動の影響を受けたことでも知られている。民芸運動の原点のひとつが朝鮮半島へと繫がる。その経緯を辿りながら,砥部の焼物と朝鮮の伝統工芸との関連性を検討している。*『大森彦七二葉の前/鬼女物語』について新井 恵 近世期に刊行された富川房信の草双紙『大森彦七二葉の前/鬼女物語』には,伊予にも多くの説話が残る大森彦七が登場する。江戸で刊行されたこの草双紙に,どのようにして大森彦七説話が取り入れられていったのか。同じく大森彦七説話を取り入れる浄瑠璃『車還合戦桜』との比較を中心として,その手法を具体的に検討している。*『人麿秘伝書』について田代 桜子 今治市河野美術館蔵『人麿秘伝書』は,柿本人麿を中心とする和歌の秘説を収録した歌学秘伝書である。本書にはおなじ内容を持つ異文資料があり,また,類似した説を有する資料も多々見られる。今回の調査では,これら他資料と比較しつつ本文の読解を進め,その内容を確認・整理するとともに,多岐にわたる中世の人麿秘説の一端を示す本書の特徴について考察を進めている。愛媛の文学芸能に関する文化誌研究― 地域の言語文化資源の位相と展開 ―

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