愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.1
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8NEWS LETTER vol.1J oint research 共同研究高橋 弘臣資料学的アプローチによる歴史研究(1)研究の目的・概要  本プロジェクトは歴史研究における新出資料の増加・資料の多様化を背景とし,資料に対する研究を進めるとともに,資料を用いた新たな歴史研究の方法を模索することを目的として,愛媛大学「資料学」研究会のメンバーである法文学部・教育学部の教員を中心に結成された。研究代表者は高橋弘臣,研究分担者は菅谷成子氏・齊藤貴弘氏・水野卓氏・中川未来氏・畑守泰子氏,研究協力者は川岡勉氏・三吉秀充氏である。今年度の共同研究の視点として(1)文字資料について,文字情報のみならず,形態や材質,設置・保管場所,字形・字体,作成の目的等にも着目しつつ検討を加え,歴史研究への利用方法を考える,(2)非文字資料についても性格や機能等に検討を加え,歴史研究への利用方法を考える,(3)資料に対する研究を踏まえ,メンバー各自が地域を設定し,域内における様々なテーマについて検討を加え,地域史研究の方法について考察するとともに,地域史の多様な諸相を明らかにする,を設定した。なおメンバー以外に,国内外の様々な分野の研究者にも参加・協力していただくことにした。 (2)公開講演会と学術交流  2016年11月5日(土)に愛媛大学人文学会との共催で,「資料学」研究会の公開講演会を開催した。この講演会にはプロジェクトのメンバーをはじめ,法文学部との間に学術交流協定を結んでいる復旦大学文物・博物館学部の教員・学生,人文学会の会員である先生方,本学の学生,一般の方々等が参加され,盛況であった。  当日は復旦大学の呂静氏,本学の齊藤貴弘氏・田中尚子氏,神戸女子大学の山内晋次氏が報告を行い,資料研究や資料を用いた歴史研究の方法・視点などをめぐって活発な討論が行われ,学術交流を深めた。また11月28日(月)~12月2日(金)にかけて,三吉秀充氏・水野卓氏が学生とともに復旦大学を訪れ,三吉氏が講演を行った。 (3)プロジェクトの研究成果  高橋弘臣は,南宋の都臨安に関する三つの地方志に記載される,財政に関する資料に検討を加え,内容を比較するとともに,その資料としての価値や有効性を明らかにした。また臨安を中心とする両浙地域の経済状況についても検討を加えた。  菅谷成子氏は,スペイン領フィリピンの近代への転換期について「マニラ税関文書」等の内容分析を進め,当時の社会経済的変容を跡づけるとともに,「スペイン帝国」の文書ネットワークの観点からモノとしての「文書」の在り方,その担い手・機能にも着目しつつ検討した。  齊藤貴弘氏は,古代ギリシアのいわゆる「多神教」の諸相について,古代ギリシアの「巡礼」の全般的性格の検討や治癒神アスクレピオスのアテナイ勧請についての研究動向,「追放」へのポリスの態度などを中心に研究を進めた。  水野卓氏は,文献資料『春秋左氏伝』をもとにした春秋史に関する研究史を整理するとともに,出土資料『清華簡』を用い,周王朝の王位継承について検討を行った。  中川未来氏は,愛媛県で明治~昭和戦前期に発行された『海南新聞』の遍路報道のうち明治期分を収集・目録化し,本文データの作成を進めた。また明治初期の遍路統制法令と新聞資料から遍路統制の実態を立体的に復元した。  畑守泰子氏は,墓の配置や近年の発掘調査の成果をもとに,第4王朝期におけるギザ墓地の形成過程を検討した。また墓碑文と墓壁画の読解に基づき,王族を中心とする当時の支配層の家族関係や王位継承の経緯の検証を行った。  川岡勉氏は,中世後期の守護職補任に関係する史料を収集し,守護職補任の時代的変遷や地域的展開に関して分析を加え,戦国末期に至るまで守護職補任がなされたことの意味,守護職補任と国成敗権との関わりなどについて考察した。  三吉秀充氏は,松山市の文京遺跡60次調査で検出した洪水層に覆われた刻目凸帯文土器期の古土壌の調査研究を進め,旧河川跡沿いの緩斜面を利用した畝立てをしていない小規模な畠跡として利用されていることを明らかした。  本プロジェクトは,今後も愛媛大学の教員間のみならず,内外の研究者と活発に共同研究・学術交流を行っていきたいと考えている。

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