愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.1
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9NEWS LETTER vol.1J oint research 共同研究諸田 龍美 「風景」の持つ哲学的・文化史的・芸術的な意義について,人文学の視点から多面的かつ本質的に明らかにしようとするプロジェクトである。今年度は4回の研究会を開催し,以下のような成果を得ることができた。 ☆諸田 龍美 中国絵画における風景―山水画の思想をめぐって―  山水画は,中国絵画史のなかでも重要なジャンルであり,詩文を中心とする文学史の展開とも密接に関連する分野である。今回は中国山水画の基本的な特徴や思想について,西洋の芸術理論との比較も試みながら考察した。 ☆西 耕生 「三日月」のある情景  新海誠『君の名は。』に登場する「カタワレ時」は,作中でふれる古語「かはたれ時(彼は誰時)」のアナグラムあるいは混淆である。「瀧」「水」をふくみ韻をふむ作中の人名も崇徳院御製を媒介として『伊勢物語』狩使段に想到させることから,本作には「とりかへ」のみならず古典のモチーフが大きく関わっている。ここに歌材「かたわれ月」も慮りながら,ゆきちがいと邂逅のモチーフの史的展開を粗描する。 ☆神楽岡 幼子 役者と風景―『絵本芦の花』をめぐって―  江戸時代中期の大坂の出版広告に「難波の名物名所」に「役者遊行の図」を取り合わせたものとして名前が見える『絵本芦の花』について,どのような出版企画であったのかを明らかにするために,二種の稿本が伝存する『戯場楽屋図会付録』との関連を考察した。 ☆中根 隆行 李桃丘子と韓国俳句の風景  俳誌『草の実』と,1930年代後半の朝鮮俳壇を考察した。『京城日報』紙による俳句欄の廃止以降,朝鮮色や郷土俳句の議論が様々な形でナショナル・アイデンティティを帯びていく経緯を検証しながら,ホトトギス系とそれ以外の俳誌に分かれ朝鮮俳壇を牽引する動向を追跡した。この中で『草の実』が育成した京城俳壇から,後の韓国の俳人李桃丘子が誕生する。 ☆山本與志隆 ハイデガーの思惟における原初的風景  ハイデガーは『存在と時間』における現存在の実存論的解釈の一端として,日常性の分析の中で現存在の環境世界との関わりを取り上げ,特徴的な仕事場風景の記述を行った。またその後のヘルダーリン詩の解釈では,根源的なものとしての家郷的風景を取り上げる。それらに共通するものとして,ハイデガーの思惟にとっての原初的な風景の根本性格を明らかにした。 ☆柳 光子 『新エロイーズ』に描かれたワインをめぐる風景  ルソーの長編小説に挿入されたワインのある情景やワインをめぐる風景に着目し,理想化された女性像や理想郷を描出するにあたってのその役割を確認しつつ,小説における自然描写の先駆者と目される作者が葡萄畑の風景をとりわけ丹念に描き出した意図,またヒロイン像を印象づける小道具や物語を彩る象徴体系の一端としてワインが選ばれた理由を探った。 ☆田中 尚子 中世日本紀における風景 中世の学者達は『日本書紀』にあるような神代の世界について独自の解釈を施すことで,自らの時代の正統化をはかる。所謂中世日本紀の世界である。そこにおける,風景に関する叙述が果たす役割を考察するための第一歩として,今年度は『中華若木詩抄』の富士山に関連する注解を手がかりに,当時の学者が抱いていた富士山や東国に対するイメージの把捉に努めた。 ☆児玉 麻美 風景のなかの政治  ドイツ・ロマン派を代表するフリードリヒの風景画に描かれる対仏感情やゲルマン的自然への愛好からは,愛国的な調子を読み取ることができる。一方,劇作家グラッベは人間の歴史や政治の移ろいの無意味さを際立たせるために自然描写を取り入ており,こうした風景観が同時代のそれとは一線を画すものであること,また閉塞的な政治状況に対する倦厭と諦念を反映させたものであることを明らかにした。 ☆大谷 尚之 アニメ作品のロケ地における製作会社・地域・ファンの連携  ~茨城県大洗町と千葉県鴨川市の事例~  茨城県大洗町(アニメ「ガールズ&パンツァー」のロケ地)と千葉県鴨川市(アニメ「輪廻のラグランジェ」のロケ地)を事例に,アニメ作品のロケ地がコンテンツを活用する際の要点について考察し,関係者による経済効果以外のコンサマトリーな価値の追求が重要であることを明らかにした。 「風景」をめぐる人文学的研究― 風景のなかの人間 ―

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