愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.6
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近著紹介 ▲写真1 福井県立若狭歴史博物館▲写真2 企画展期間中,同館エントランスホールにて     本書が展示紹介されました▲写真3 刊行に併せて同時開催された記念講演会     (科研中間成果発表)の様子     (2021年11月13日於 福井県立若狭歴史博物館) 近年,研究の進展により日本列島における農耕(初期農耕)の起源が縄文時代の前半段階にまで遡ることが,確実視されるようになって参りました。特にここ10年ほど,有用植物に関する理化学系分野(植物考古学等)からの新発見が相次いでいます。 一方で,既に140年以上の蓄積がある狭義の考古系資料,すなわち石器や土器,骨角器といった人工遺物群に対する初期農耕への評価は依然,緩慢なままです。なかでも西日本では,長年多くの関連資料が充分な評価を与えられることなく,発掘整理の後,各地の博物館収蔵庫等に眠り続けるという悪循環を繰り返してきました。 本書は,科研費事業「対馬暖流ベルト地帯周辺における縄文農耕の実証化に向けた関連石器類の広域基盤研究」(19K1097基盤研究C)にかかる成果学術書の第一弾として,2021年11月に発刊されたものです(写真2左)。全5章と朝鮮語要旨で構成されています。上記「縄文農耕」の日本列島周辺における関連学史の整理と主要文献の集成を行うとともに,著者が近年提唱する「対馬暖流ベルト地帯」(日本海西部沿岸エリア)の存在意義について問題提起を行い,今後の課題点を展望しました。 第Ⅰ章では研究課題の目的と学史的背景,ならびに研究経過を,つづく第Ⅱ章では,日本国内における「粗製の扁平打製斧形石器群」を中心とした関連石器類を対象に2020年までの研究学史を整理し,主に五つの課題点を提起しています。さらに第Ⅲ章では民族学,民俗学ならびに近年発展が目覚ましい「植物考古学」分野に関する,2020年までの関連学史を纏めました。 こうした関連諸科学による分析成果と,これまで蓄積されてきた幾多の考古系(物質文化)資料とを照らし合わせ,摺り合わせていくことが,今日果たすべき研究課題であるといえるでしょう。第Ⅳ章では,上記第Ⅱ章,第Ⅲ章における動勢を総括し,今後の課題点について,三つの視座から展望しています。 刊行に併せて開催された福井県立若狭歴史博物館(写真1)における記念講演会(科研中間成果発表)では,本書が広く紹介されました(写真2・3)。 さらに現在,本書の続篇となる成果学術書Ⅱの刊行に向けた準備も既に進めているところです。続刊公開の暁には,再びこのニューズレターでもその成果をご紹介致しましょう。10NEWS LETTER vol.6幸泉 満夫縄文農耕論と関連考古学史

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