愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.6
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近著紹介 定価:本体8,000円+税 ISBN978-4-88708-464-3 C3020  出版社による紹介:旧著『村の相伝・近代英国編』(刀水書房、1999年)刊行後20年間取り組んできた日英村落史対比研究。長野県旧上田藩上塩尻村と英国ケンブリッジ州ウィリンガム教区を,時系列的(200年間)多角的に分析した総合モノグラフ研究。       本書の3大方法論 1:多角的なアングルによる分析を実現 2:互いの歴史的独自性を尊重した上で,相違点の強調をする比較ではなく,共通点・相似点を見出す 3:系譜学と隣接する社会経済史学を含む隣接諸分野との架橋を可能にした。その始まりは,33年前。初めてイギリスで奨学生として学び始めた折の「社会的DNAという系譜学的多層共同性を検出したい」という筆者の内的衝動だった。 [略目次] はしがき/謝辞/初出一覧 序論 第1章 前提第2章 非常時―災害・凶作第3章 常時―農事暦第4章 家屋敷・住居分布の変遷第5章 同族・親族・家Family構造(はしがきより) 本書は感謝の本です。なぜ感謝かというと,本書で利用した史料やデータとの出会いは,まさに渡りに舟の連続であったからです。数百年単位の時系列的分析に十分耐える,英国および日本で最も史料の揃った村における史料の発掘・発見は,たまたま著者がそこに居合わせたというだけのことなのですが,その時そのタイミングその相手でなければならなかった。そして,この日英双方での総合モノグラフ研究には結局それぞれ20年以上の歳月を費やす結果になっています。しかし,おかげで人文社会科学の中にあって長年ほぼ独自の世界を保ってきた系譜学と,隣接する社会経済史学を含む隣接諸分野との架橋を可能にすることができたと思っています。そして,言ってみれば時空間を還流するエネルギーのための円環面ドーナツの穴のような存在であった系譜学との架橋は人文科学のみならず,自然科学の分野とも接合し,融合されていくのではないか,という予感があります。 あらためて本書は,著者が20年来取り組んできた日英村落史的対比研究の成果を一書にまとめ,日本から世界に向けての情報発信および価値の提供を含めて国際貢献をおこなう橋頭堡にすることを最終の目的としています。本書でとるアプローチである対比(parallel and contrast)第6章 家系譜第7章 相続慣行 第8章 世代継承・社会的DNA 第9章 地域金融組織第10章 共同墓地結論索引/巻末付録研究では,互いの歴史的独自性を尊重した上で,相違点の強調をする比較ではなく,共通点・相似点を見出そうという姿勢をとっています。これまで日本と英国双方の研究チームを組織し,その対話を通じて日本では旧上田藩上塩尻村を,英国ではケンブリッジ州ウィリンガム教区を中心に研究が進行中です。 社会科学一般において,1つの理論を裏付ける十分な基礎は,時系列的に長期間観察された対象をなるべく多角的に分析する,本書のような総合モノグラフ研究によって提供されます。ところが,1つの総合モノグラフ研究を果たすには学説史の進展およびその要請とあいまって20年はかかるのです。近年はさらに長期化する傾向にさえあると言えるでしょう。したがって,イギリスでも1950年代以降,成果物はまだ20編を超えない。そして日本では,やはり半世紀前の有賀喜左衛門の岩手県石神村,中村吉治研究グループの岩手県煙山村・長野県今井村など文字通り指折るほどです。今回の刊行物は,その後継となる長野県上塩尻村の総合研究を英国のケンブリッジ州ウィリンガム教区のそれと対比する形で著しています。その上で,新たなアプローチである家系譜の導入により,いうなれば社会的遺伝の動因となる,社会的DNA とでも呼ぶべきものを対比的に抽出する可能性を示すことになります。 数世紀にわたる英国と日本の2つの村落における相続態様と世代継承とを直接比較するという初めての試みを通して,英国の工業化以前の人口が示す高い移動性については半径10キロメートル程度の範囲で他の村々に移るというごく短距離のものでした。人口の移動性にもかかわらず親族の結びつきは重要なものとして残り続け,またそのようなものとして認識されていた点は,日本の上塩尻村との対比でも確認できる。また,社会関係の重層性という点でも類似します。とくに3世代の相続と継承を基点に日英2つの最も史料に恵まれ,200年以上の時系列上で観察できる村落コミュニティを対比させることで得られた知見は,重層性を示す,1つのコミュニティでありながらもさらに大きなコミュニティの入れ子の連鎖としてある,社会的DNAと呼ぶしかないものであった。2つのことを同時に追っていたのはなく,1つのことを追っていたのであった。この社会的DNAはおそらくは,極小では入れ子構造をなす原子・素粒子の世界,極大ではやはり入れ子構造をなすとされる(故ホーキング博士)宇宙の間にあって,やはり入れ子構造をなす。少なくとも,この社会的DNA対比研究のアプローチにより,既存のデータをあらためて分析すると,そこで得られるのは,人間は共通する点・似ている点の方が異なる点よりも多い,という結果であることを著者は強く予期するものです。NEWS LETTER vol.611高橋 基泰村の相伝・日英対比研究編村の相伝・日英対比研究編̶社会的DNAの検出̶ ̶社会的DNAの検出̶

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