愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.6
12/16

近著紹介 [目次] 序章 問題の所在  第1節 日本の刑事手続における自白の地位―理想と現実 第2節 従来の学説・判例の問題点  第3説 学説・判例の新たな展開 第4節 本書の課題(目的) 第1章 アメリカの自白排除法則  第1節 不任意自白の排除法則―自白法則 第2節 違法収集自白の排除法則 第2章 ミランダ・ルールとその課題  第1節 自白法則の新展開―ミランダ判決とミランダ・ルール  第2節 ミランダ判決以降の判例の展開―ミランダ・ルールの「弱体    化」と「強化」 第3節 ミランダ・ルールの憲法上の地位―ディカーソン判決  第4節 ミランダ・ルールの課題 第5節 小括 第3章 日本の自白排除法則  第1節 学説にみる自白排除法則 第2節 判例にみる自白排除法則 第3節 小括 第4章 自白排除法則の再構成  第1節 競合説の意義と可能性  第2節 違法収集証拠排除法則の再構成 第3節 自白法則の再構成  第4節 小括結びに代えて[内容紹介]  本書は,『北大法学論集』に発表した「自白排除法則の研究(1)〜(12・完)」に大幅な加除・修正を施した上で整理し,一書の形にまとめたものである。基になっているのは,北海道大学に提出した博士論文である。 その名の通り,本書は,自白排除法則,すなわち自白の証拠能力についての研究書である。 日本における自白の証拠能力をめぐる問題は,次の2点に集約される。1つは,自白の強要に対して厳しい禁忌の姿勢にたつ憲法の理想とのかい離,もう1つは,違法性と任意性の相対化である。本書は,これらの問題克服の鍵を,「競合説」(自白の証拠能力を,憲法38条2項・刑事訴訟法319条1項に定められた自白法則と,判例によって採用された違法収集証拠排除法則の両方を適用して判断すべきとする考え方。「二元説」とも称される)に見出し,同説の意義とその具体的内容の検討を通して,憲法の理想に合致し,違法収集自白と不任 ※以上の文章は,本書「はしがき」の一部に若干の修正を施したものである。なお,本書は,刑事司法及び少年司法に関する教育・学術研究推進センター(ERCJ)の主催する「第6回守屋研究奨励賞」に選考された。意自白をそれぞれ的確に排除することを可能とする,あるべき自白排除法則を法解釈論として提示することを試みたものである。 自白排除法則は,突き詰めれば,被疑者の黙秘権を実効的に保障するとともに,適正手続を実現するために存在している。しかし,現実には,取調べにおいて被疑者が黙秘権を行使することには多くの困難が伴い,また,自白の獲得を目的とした違法な身体拘束なども後を絶たない。このことは,自白排除法則が,その本来持つ力を十分に発揮できていないことを意味している。その大きな原因となっているのが,まさに先述した2点の問題であるが,このような問題を生み出している原因はどこにあるのかをさらに遡っていくと,最終的には自白の証拠能力の判断を担っている裁判官の姿勢に行き着く。自白排除法則(に限らずあらゆる法制度や法原則)の命運は,裁判官の姿勢,つまりは裁判官の法解釈にかかっているのである。  このことを踏まえ,本書は,自白排除法則がその本来持つ力を発揮するために,現行法の下でどのような法解釈が可能なのか,また,解釈すべきなのかを筆者なりに考え,裁判官に対し,問題提起と提案を試みようとするものでもある。かつて平野龍一博士は,「学説の役割は,裁判官にはたらきかけて法をつくらせることにある。いいかえると,学説とは裁判官を説得しようとする努力にほかならない」(同「刑法と判例と学説」『刑法の基礎』〔東京大学出版会,1966年〕243頁)といわれた。本書は,及ばずながら,筆者のそのような「努力」のささやかな成果である※。12NEWS LETTER vol.6関口 和徳『自白排除法則の研究』(日本評論社,2021年)

元のページ  ../index.html#12

このブックを見る