愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.6
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近著紹介  本書は,現代アジアの諸問題について学術的な立場から「鷲づかみ」で理解することをめざし,編まれたものです。主に国際関係論と地域研究を専攻する総勢35名の執筆者が,それぞれの専門分野から執筆しています。現代アジアが直面する社会・経済・政治・文化の問題について,①どのような問題があるのか,②なぜそれが問題なのか,③その問題を考えるためにはどのような専門知識が必要なのか,④その問題に対してどのような見解や立場があるのか,⑤その問題を解決するための方向性とは何か,などについて論じています。 共編者である東京農業大学の佐藤史郎氏と私が,本書の企画を立て始めたのは,コロナ禍の直前,2019年末から2020年初めにかけてのことでした。私たちの念頭にあったのは,おおよそ次のようなことです。 ひとつには,日本におけるアジアの「イメージ」や「位置づけ」が変わってきた状況に対応して,今,アジアのさまざまなイシューについて専門家の立場から論じる本が必要とされているのではないか,ということです。 もうひとつは,世界全体の中でアジアの「重み」が増しつつある現実に対応して,国際関係論と地域研究の協働プロジェクトとして,今あらためてアジアに向き合ってみたい,という思いです。 その後,執筆のお声がけをし,いざ執筆作業に入った頃から,私たちの日常はコロナ禍により激変しました。特に地域研究者にとって,現地に足を運ぶことができないのはなによりも辛いことです。私自身,コロナ以前は毎年平均3〜4回のペースでインドに行っていましたが,もう2年半近く,渡航できていません。こんなに長い間インドを留守にしたのは,1997年にバックパッカーとして初渡印して以来,初めてのことです。また,コロナ禍により,私たち研究者は,リモートワークやオンライン授業など,新しい環境への対応も迫られることとなりました。しかし,そのようななかでも,当初声をかけさせていただいた全員の執筆者から,力のこもった原稿を寄せていただくことができました。 35名の執筆者の多くは,佐藤氏と私がポスドク時代に関わらせていただいた大型共同研究プロジェクトを通じて知り合った若手〜中堅の研究者です。また本書では,明石書店の上田哲平氏が企画当初から私たちの議論に参加してくださいました。北海道の東京農業大学オホーツク・キャンパスと,東京の明石書店と,愛媛とをつないでのオンライン編集ミーティングは,2021年4月からの半年間で12回を数えました。 本書では,35の具体的イシューを論じています。全体を,社会分野・経済分野・政治分野・文化分野の4部構成としました。 第Ⅰ部の「社会」分野では,「人口・家族」,「シングルマザー・寡婦」,「ジェンダー」,「ケア」,「教育」,「移民」,「難民」,「人身売買」,「先住民族」,「社会運動」,「カースト」を取り上げています。 第Ⅱ部の「経済」分野では,「経済成長」,「一帯一路構想」,「開発・貧困」,「資源・エネルギー」,「農業・食料」,「環境・公害」,「都市化」,「観光」の各テーマを扱っています。 第Ⅲ部の「政治」分野では,「民主化・民主主義」,「香港・台湾」,「軍事化」,「核兵器・原発」,「平和構築」,「ASEAN」,「汚職・贈賄」,「感染症」,「災害・防災」を扱っています。 第Ⅳ部の「文化」分野では,「仏教」,「ヒンドゥー教」,「キリスト教」,「イスラーム」,「世界遺産」,「ポップカルチャー」,「路上文化」を取り上げています。 このうち私は,アジアの「社会運動」について執筆しました。アラブの春(2010年)以降,インド汚職撲滅運動(2011年),台湾ひまわり学生運動(2014年),香港雨傘運動(2014年),タイ反体制運動(2020年),ミャンマー市民的不服従運動(2021年)など,アジア各地で社会運動が盛んになってきています。他方,日本では社会運動というと,1960年代の安保闘争や全共闘運動のイメージが強いままです。そのため,今のアジアで起こっている社会運動は,昔の日本で起こった社会運動と同じようなものだ,と早合点してしまう人がいるかもしれません。そうした誤解を解くために,社会運動とは何か,アジアにおける民族運動の経験,リアルタイムのグローバルなつながり,について順に論じています。 本書の読者対象は,まず,留学・語学研修・海外研修・インターンシップなどで東アジア・東南アジア・南アジアに行く学生さんたちです。また,出張・駐在などの仕事で,あるいは観光で,東・東南・南アジアに行く人たちにもぜひ読んでいただきたいと考えています。佐藤史郎・石坂晋哉編『現代アジアをつかむ―社会・経済・政治・文化 35のイシュー』明石書店,2022年※この記事の文章の一部は,本書「あとがき」から転載しています。NEWS LETTER vol.613石坂 晋哉現代アジアをつかむ―社会・経済・政治・文化 35のイシュー

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