愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.6
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 グローカル地域研究(Glocal Area Studies, GLOCAS)は,平成27(2015)年度にスタートし,平成28(2016)年度から現在まで,愛媛大学における文系唯一のリサーチユニットとして共同研究を進めてきた。令和3(2021)年度末で,リサーチユニットとしての2期6年間を終了することになるが,2021年12月現在,刊行物としては,GLOCAS資料集シリーズを第7号まで,GLOCASワーキングペーパーシリーズを第5号まで発行している。 また,これまで3つの国際会議でパネル報告を行った(世界社会学会議(ISA World Congress of Sociology, カナダ・トロント,2018年),国際地域学会大会(World Congress of the RSAI,2021年),世界政治学会大会(IPSA World Congress of Political Science,2021年))。以下,今年度実施したRSAIとIPSAでのパネル報告概要を紹介する。 RSAIの第13回大会は,当初2020年6月にモロッコ・マラケシュで開催される予定であったがCovid-19の影響で延期され,2021年5月にオンラインで開催された。“Glocalization and Regional Development”パネルは,日本時間2021年5月28日9時30分から行われ,グローカル化現象がローカルな地域発展にいかなる影響を及ぼすかにつき議論した。石坂は,インドで自然農法が実践されている2村を比較し,複数のキーパーソンの存在および農業振興の切迫性が,地域ぐるみでの積極的な取り組みにつながる条件となっていたと指摘した。梶原は,第一次大戦時に日本の捕虜となったドイツ兵が,労働力として日本の地域社会に与えた影響は非常に小さかったものの(パン製造技術を伝える等の例外はあったが),消費者としてかなりの額を使ったことで地方都市が潤うという効果をもたらしていたことを明らかにした。近廣は,日本の預貸率低下の要因の一つは,地方都市の労働力が県境や国境を越え高賃金の場所へと移動するという自然な流れが阻害されている点にあると論じた。太田は,SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)というイギリス由来の政策スキームが東近江市で独特の形で導入されるようになった過程を検証し,キーパーソンとなる市職員の存在と,従来からの生活環境主義的運動の素地があったことが重要だったと指摘した。 IPSAの第26回大会は,当初2020年7月にポルトガル・リスボンで開催される予定であったがCovid-19の影響で延期され,2021年7月にオンラインで開催された。 “Glocalization and Nationalism”パネル(Local-Global Relations(RC47)部会)は,日本時間2021年7月14日10時から行われ,グローカル化現象においてナショナリズムというファクターがどう作用するかにつき議論した。土屋は,戦後日本マグロ漁業の拡大が,米国のナショナリズムを背景とした利害と衝突することになった一方で,中南米諸国と日本の間では米国への対抗という点で利害が一致することになったと指摘した。梶原は,第一次大戦中の日本のナショナリズム高揚下で反独感情が高まる中,ドイツ兵捕虜の収容所が設置された日本の地方都市では,市民の好奇心にこたえて地元紙がドイツ人の日常生活等を詳細に報道し,ドイツ人への好意的イメージが形成されていたことを明らかにした。近廣は,外来楽器のピアノが世界に誇る日本の重要な輸出産業の一つとなった過程では,日本の個々の技術者の技量や努力と共に,国内各地をつなぐ地域ネットワークの存在が重要であったことを明らかにした。石坂は,近年のインドの「スバース・カーレーカル自然農法」にはヒンドゥー・ナショナリズム的性格がみられるが,ヒンドゥー化した自然農法を偽物と断じたり,自然農法には元来ナショナリズムと結びつきやすい要素が潜んでいたとみなしたりする必要はなく,常に複雑系的に変化し続けるものとしてグローカル化現象を捉えるべきだと論じた。コメンテーターの福井は,ローカルとグローバルの相互作用がナショナリズムに与える影響についても検討することが重要ではないかと指摘した。[GLOCAS刊行物]・GLOCAS資料集:マグロ遠洋漁業者への聞き取り調査(愛媛編,高知編),『海南新聞』松山俘虜収容所関連記事集成(大正3年編,大正4年編),Natural Farming Today(1,2,3)。・GLOCASワーキングペーパー:Glocalization of natural farming (Ishizaka),German POWs and their occupation(Kajiwara),Store image and shopping patronage (Mikami),Scaling up of niche policy innovation for long-term care (Ohta),Japanese deep-sea tuna fisheries (Tsuchiya)。NEWS LETTER vol.63R esearch unit 愛媛大学研究活性化事業石坂 晋哉グローカル地域研究リサーチユニット

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