6NEWS LETTER vol.6若手研究 研究代表者若手研究 研究代表者 1920年代の東アジアは,「ワシントン体制」と呼ばれる国際秩序により説明されることが一般的である。1921年のワシントン会議での諸条約に基づく新秩序がアメリカの主導により形成され,日英米三カ国の協調により維持されたとしばしば論じられている。これに対し,イギリスの政策決定者はアメリカ主導の新秩序が形成されたという認識を持っていなかったという反論がなされ,近年においてもイギリス外交と「ワシントン体制」の関係については様々な議論が行われている。 このような研究状況において,本研究は東アジアだけでなく世界に広がるイギリス帝国の防衛という観点から,1920年代の「ワシントン体制」に対するイギリス外交および日英間の協調の実態について解明することを目的としている。第一次世界大戦後のイギリスは世界中に権益を有する帝国であったが,ヨーロッパ列強やアメリカ,日本といった各国との激しい角逐に直面していた。そのような競争下で,イギリスは東アジアだけでなく,インド,東南アジア,太平洋地域などの権益も守らなければならなかった。そのためイギリスの政策決定者は,「ワシントン体制」に対するイギリス外交と日英間の協調を,世界大に広がるイギリス帝国の防衛という視点から考慮し決定し 「団体の構成員は多数決による団体の意思決定に拘束される」。 団体の意思決定を必要とする場面において,構成員の全員一致による決定が困難である際には,この「多数決の原理」に基づく「団体的な拘束力」が正当化されることがある。 社会に存在する多彩な団体において,その活動・運営を実効的に執り行うためには,団体内での円滑な意思決定が欠かせない。しかし,その場面では,団体の構成員間で意見が分かれることもあり,団体全体(または多数構成員)と個別の(少数)構成員との利益・利害をどのように調整するかが求められる。そして,その調整を考える際には,そもそも多数決による「団体的な拘束力」がなぜ正当化されるのか,その理由づけの根拠・内実が問われうる。 本研究は,非営利団体(社団及び組合)を対象とし,ドイツ法での議論をもとに,構成員が適正な情報の取得・共有に基づき団体運営に参与するための基礎的な権利を「情報(請求)権」と定義づけ,その権利保障が団体的な拘束力の正当性を根拠づける諸要因・条件となりうるかについて検討を行う。科研費・若手研究(21K13214)に採択された本研究は,2021年度から24年度までの4か年を研究期間としている。 初年度となる本年度では,特に,「情報(請求)権」の一種である,民法上の組合における組合員の「検査権」(Kontrollrecht)概念の分析を行った。それにより,当該権利は,全ての組合員に(強行法的に)最低限保障された権利であり,業務決定・執行者の監督をし,運営に参与する前提となる権利であることを明らかとした。当該研究成果は,愛媛大学法文学部論集・社会科学編51号にて公表した。また,新たな研ていった。本研究はこのような時代背景に即して,当時のイギリスの政治家や外交官が残した一次史料に基づき,1920年代のイギリス外交を実証的に解明する試みである。 本研究の特色として,次の二点が挙げられる。まず東アジアを超えて世界大に広がる帝国の防衛という問題の中で,地域秩序として「ワシントン体制」を位置づけている点である。次に日本に対するイギリス外交も,東アジアだけでなく,インド,東南アジア,太平洋地域も含めたアジア全体の観点から考察する点である。 初年度である2021年度は新型コロナウイルス感染症の影響で,イギリスでの史料調査ができなかった。そのため公刊されている史料集や研究書を用いて,先行研究の把握と分析に努めた。今後はまだ不透明な点もあるが,イギリスでの史料調査を行い,得られた史料の分析に基づく成果を日本および海外の学会で発表したうえで論文として公表していきたいと考えている。本研究の今後の展望としては1930年代の日本およびアジアに対するイギリス外交の研究につなげ,アジア・太平洋戦争の起源について新たな知見を加えることを目指している。究会(「末川民事法研究会」,「民事法研究会」,「中・四国法政学会」等)に加わるなど,研究遂行に不可欠な進捗・成果報告の機会も複数確保した。 ところで,団体の基礎理論は,実際に社会において存在する多様な非営利団体の運営・ガバナンスに資するものでなければならない。そのため,地域資源管理を担う団体活動の実態(実体)分析に関して,隣接諸科学との学術交流・意見交換にも積極的に取り組んだ(「村落環境研究会」,「中日本入会林野研究会」,「コモンズ研究会」等)。その際には,林野庁や各種自治体の実務担当者との意見交流の機会を得ることもできた。ほかに,「人新世」概念を基軸として学際共同研究を行う龍谷大学里山学研究センターの客員研究員を務め,農地・森林・水資源の管理に携わる財産管理型の諸団体の運営事例の分析を進めている。 このほか,本研究の成果を,教育や社会貢献活動等を通じて,より広く社会に還元できないかと試みている。昨年度から引き続き愛媛県土地家屋調査士会「境界問題相談センター愛媛」の調停委員を務め,また,各種の協同組合の実務担当者の協力のもと,愛媛大学において「協同組合とは何か−協同組合論」講座(共通教育科目)を担当・実施した。当該講座内容については,愛媛大学法文学部論集・社会科学編52号にて公表した。 引き続きCOVID-19による制約が続くものの,この状況を『禍を転じて福となす』の機会と捉え,オンライン環境をうまく活用して,より発展的に研究活動に取り組んでいきたい。菅原 健志西脇 秀一郎「情報権」概念を基軸とした団体の意思決定規範と構成員の権利保障との相関性の検討イギリスと「ワシントン体制」 1918-1931年―帝国防衛と日英協調の連関―
元のページ ../index.html#6