愛媛大学法文学部 研究ニューズレターvol.6
7/16

若手研究 研究代表者若手研究 研究代表者 グローバル化に伴い,英語が共通語として機能する場面が増えてきました。私が専門とする第二言語習得理論,特に学習動機づけの分野では,そのような英語の現状が,英語以外の言語の学習動機づけに悪影響を与えている例が,特にヨーロッパで多く報告されています。本研究の出発点は,そのような報告に疑問を持ったことでした。日本ではこの「共通語となっている英語の,英語以外の言語の学習動機づけに対する影響」の研究がほとんど進んでいません。実際のところ,英語が共通語として広まっている現象を,日本人学習者はどう捉えているのか,また,英語以外の言語の学習に動機づけ面で影響はあるのかを明らかにしたいと考え,本研究を開始しました。 研究の初年度は,これまで第二言語習得理論の分野で様々に議論されつつも,実際の調査で使える状態にはなっていなかった「国際共通語としての英語に対する態度」を測る質問紙の開発を目指しました。これには,これまで何本か共著を出しているハワイ大学マノア校のSeongah Im教授の助言も頂きながら,実証研究を行いました。今年度は,開発した質問紙を基に,基礎外国語ご担当の先生方の協力も得ながら,学部1回生を対象に質 日本の漫画,アニメ,ゲームが,世界中の若者に親しまれていることはご存知でしょう。その人気を利用して政府が「クールジャパン戦略」を掲げるほど,日本のポップカルチャーは世界への発信力を持っています。ですが,こうした海外における日本文化の人気は今に始まったことではありません。今からおよそ150年前,19世紀後半のヨーロッパでも,さらに大規模で影響力の強い日本ブーム「ジャポニスム」が巻き起っています。まずは,異国情緒を味わうかのように,着物を着た女性や屏風などが画面に描かれ始め,次いで,浮世絵の鮮やかな色彩や大胆な構図が絵画の表現形式そのものを変えていきました。当時,停滞しつつあった西洋美術は,「日本」という他者に出会うことで,再び息を吹き返したのです。 このジャポニスムに注目し,ドイツ国内の現象を探るのが本研究です。ジャポニスム研究は近年盛んとなり,美術だけでなく,建築,音楽,演劇,服飾と対象分野を拡げています。しかし,それらは発祥地となったフランスを中心に行われ,その周辺諸国の検証はまだ十分ではありません。フランスに遅れたドイツでは,1890年代にジャポニスムが「フランス」を経由して伝播したことが通説となっています。本研究では,フランスからドイツへ問紙及びインタビュー調査を行っています。 調査では,英語が国際共通語として機能している現状を前向きに捉えつつ,例えば「サッカーに興味があるので,ドイツ語は高校時代から自習していて大学でもドイツ語を履修した。いつかドイツに行って,ぜひドイツ語でコミュニケーションしてみたい」などの学習者の声がきかれました。つまり,英語が共通語として機能している現状を認識しつつも,様々な文化について知りたい,その国の言語でコミュニケーションできるようになりたいといった動機づけを持ち,英語と基礎外国語のバランスをとりながら学習している人も多くいるということです。もちろん,英語が共通語として機能しているので英語学習に集中したいという声もありましたが,英語以外の言語の学習動機づけには,分野で報告されているような「共通語となっている英語の悪影響」がない例もあり,他の多くの要素が関係していることがわかってきました。 今後は,年度末にかけての追跡調査を基に,その後の動機づけに変化はあるのか,またその動機づけは実際の学習達成度とどのように関係しているのかなどを明らかにすることで,理論面のみならず,教育面でもヒントが得られるような研究にしたいと考えています。とジャポニスムを伝達したと人物として,日本美術商ビング,美術批評家マイアー=グレーフェ,建築家ヴァン・デ・ヴェルデの三者に注目し,ドイツ・ジャポニスムを多角的に考察していきます。 これまでの研究で,パリで活躍したドイツ出身の美術商ビングが,雑誌『芸術の日本』の翻訳版発行や,「アール・ヌーヴォー」と呼ばれる新しい美術工芸様式の紹介を通じて,ドイツに日本美術の特徴やその使用例を示したことが明らかになりました。また,ビングの代弁者であるドイツ人美術批評家マイアー=グレーフェの執筆活動を通じて,日本美術に感化された美術工芸様式(アール・ヌーヴォー)がドイツに芽吹いたことも判明しています。今後は三人目のヴァン・デ・ヴェルデに照準を合わせ,美術制作者としての彼が,如何にジャポニスムを受け入れたのか,また,1890年代に開始されるドイツ美術工芸運動の中に,彼のジャポニスムは如何に反映されているのかを解明していく予定です。NEWS LETTER vol.67高橋 千佳野村 優子国際共通語としての英語に対する態度と外国語学習に関する実証研究ドイツ・ジャポニスムの転換点:ビング,マイアー=グレーフェ,ヴァン・デ・ヴェルデ

元のページ  ../index.html#7

このブックを見る