1Study abroad brochure 20232020年に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的大流行は、世界の最優先課題の座をひとまず退いたようです。日本でも、2023年5月8日より、新型コロナウイルス感染症の感染者・濃厚接触者の隔離措置、外出自粛要請、就業制限等はすべて解除されました。国際交流活性化のためには、誠に喜ばしいことです。他方で、紛争・暴力というあらたな暗雲が国際交流に深刻な影響を及ぼしています。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻(2022年2月24日~現在)、パレスチナ・イスラエル戦争(2023年10月7日~現在)は、紛争・暴力の新時代を象徴する出来事といえるでしょう。アフリカ、中東、東南アジア、南米における紛争も長期化しており、ウプサラ紛争データ・プログラム (Uppsala Conflict Data Program) によると、2022年の紛争による死者数は20万人を超えました。これは直近の最大数約15万人(2014年)を大きく上回ります。また、国連難民高等弁務官事務所(United Nations High Commissioner for Refugees)によると、2022年末時点で紛争や迫害により故郷を追われた人は1億840万人、1年で1,910万人増と、いずれも過去最大になりました。こうした紛争・暴力の拡大は、紛争それ自体が生じていない国にも悪影響を及ぼしています。例えばパレスチナ・イスラエル戦争は、アメリカ国内でも世論の分断を引き起こしています。また、物資の国際的移動の停滞は世界的な物価上昇の一因となり、航空運賃、宿泊費の高騰にもつながっています。コロナ禍後の国際交流復活を熱望していた学生の皆さんにとっては不利な条件が山積みです。しかし、このような世にこそ、草の根レベルでの国際交流が大きな意味を持つと信じます。今年度も、幾多の困難にくじけることなく、多くの学生さんがフィールドワーク、インターンシップ、交換留学、語学留学に熱心に取り組み、草の根国際交流の種をまいてくれました。参加学生の皆さん、引率教員の皆さんにあらためて敬意と謝意を表すると同時に、本冊子を手に取り「あとに続きたい!」と熱い想いを抱く皆さんに、アルベルト・シュバイツァー(1875~1965年)の言葉を贈り、巻頭言の締めくくりとさせて頂きます。人類の理想を希求するすべての志ある人のうち、公然と行動を起こすことができるのはごく一部です。残りの人々は、ささやかで目立たない行いに甘んじていなければなりません。しかし、こうした行いを足し合わせた力は、広く世に認められる人々の行為よりも千倍も強いのです。前者に比べれば、後者は深い海の波に浮かぶ泡のようなものです。〔中略〕たとえ不利な条件にあったとしても、受け身で運命に甘んじるのではなく、〔中略〕置かれた環境の中で、真の人間性ある行動を他者に対して心がけなければなりません。世界の未来はそこにかかっているのです。(Albert Schweitzer, Out of My Life and Thought: An Autobiography, translated by Antje Bultmann Lemke, The Johns Hopkins University Press, 1998, pp.90-91.)2005年3月刊行の創刊号法文学部国際交流委員長 福井 秀樹(政治システム論)2016年には渡航先が24カ国に今私の手元に2005年3月に発行された『四国から四つの国へ 海外研修報告書』があります。この冊子では、表題のとおり、2004年度に実施された中国、韓国、ドイツ、イギリス4カ国での語学・文化研修が紹介されています。最初4カ国だった学生の渡航先も、法文学部人文社会学科が誕生した2016年には、 24カ国にまで増えました。さらに渡航の目的も当初の語学・文化研修に止まらず、インドやアフリカでのフィールドワーク、国際会議へのオブザーバー参加、日本語指導補助など、実に多岐に渡っています。この年に名称が海外研修報告書から『青い国四国発青い地球交流記 海外体験ブックレット』へと変わったのも頷けます。ところが順風満帆に見えた法文学部生の海外渡航も、2020年の新型コロナウイルス感染症の拡大により、中断を余儀なくされました。しかし海外体験ブックレットは、愛媛大学法文学部の元留学生から寄せられたメッセージや、オンライン研修体験談などを掲載した特別号として発行され続け、途絶えることはありませんでした。そして2023年、円安やロシアによるウクライナ侵攻の煽りを受けつつも、海外渡航は再びコロナ禍前の状態に戻りつつあります。最新の『海外体験ブックレット2023』からはついに「特別号」という3文字が消えました。約4年間続いた“the winter of our discontent”「われらが不満の冬」(ウィリアム・シェイクスピア『リチャード三世』第1幕第1場1行目)から脱したのが20周年という節目の年に当たったことを喜びたいと思います。進行中の国家間紛争(2022年)出典:Uppsala Conflict Data Programhttps://ucdp.uu.se/downloads/charts/ (閲覧:2023年12月24日)1億840万人 世界で故郷を追われた人(2022年)出典:UNHCR日本 数字で見る難民情勢(2022年)https://www.unhcr.org/jp/global_trends_2022 (閲覧:2023年12月24日)コロナ禍での「特集号」創刊号企画責任者 井上 彰 (英米文学)「紛争・暴力・分断新時代の国際交流」『青い地球』創刊20周年に寄せて
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