愛媛大学法文学部 創立50周年記念誌
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51Ehime University Faculty of Law and Letters 50thたが、しかし、今思えば高校生活と大した違いはなかったような気がする。ただ、高校までと違った「開放感」があった。これまでの生活の中では、中学生の頃には高校受験、高校になれば大学受験という2、3年先の面白くない行事が、いつも私の行く手に横たわっていたが、もはやそれはない。突然天井が消えて、青空が現れたかのようであった。この感覚は大学時代に特有な感覚であったと思う。 大学の4年間は、私がこのような開放感に浸っている間に、あっという間に過ぎた。本当は、この4年間の中で卒業後のことを考えておくべきであった。「卒業後の生活」、これこそが一生の中で一番長く過ごさなければならない時間であり、自分の人生そのものにかかわる重大な事柄である。にもかかわらず、このことについて何も考えないまま4年間を過ごしてしまった。 なぜそうなってしまったか。今思うに、自分で自分の人生を決めることに慣れていなかったのではないかと思う。これまで受験など数年先のことばかりに気を奪われ、その先にある長い人生のことなど考えもしなかった。「自分はどのような職業につきたいのか。どのような生活がしたいのか」といった当然に考えるべき事柄を全く考えなかった。今思えば、我ながら随分とのんきなものであったとあきれ返ってしまう。卒業を間近に控えたころ、周りの友人たちの行動を見て、初めて自分の置かれた立場が理解できた。4.卒業後 卒業後法律事務所に勤務し、このことがきっかけで司法試験を目指してみることにした。勉強すること自体は嫌いではなかったので、さほど苦にはならなかった。受験を決めてから約5年後、何とか合格することができた。毎日自分に知識が増え、考えが深まっていくことを感じられる日々は結構楽しいものであった。 「大学生の頃に司法試験の勉強を始めていたら?」と考えることがないわけではない。しかし、決して後悔しているわけではない。私が過ごした大学4年間はあれでよかったと思っている。無意味に過ごしたかに見える4年間も、私にとってはいい時間であった。卒業後に始めた司法試験勉強も、あれでよかったと思う。大学生の時から受験勉強を始めていたら、あのような学生時代を送ることはできなかったであろうし、また受験勉強もあれほど充実したものとはならなかったかもしれない。5.最近 還暦もとっくに過ぎ、68年余りを生きてきた。私たちの年齢になると時間が経つのがものすごく早い。焦りに似た思いを感じることもある。「ああしたほうが良かったのではないか。こうすべきだったのではないか。」と……。しかし、これは後悔ではないだろう。一つの人生を選ぶということは他の人生を捨てることなのだから、捨てた人生のことを考えることは当たり前のことではないだろうか。この原稿を書きながらこのようなことを考えている今日この頃である。

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