幸泉満夫 『初期農耕関連具類の出現と対馬暖流ベルト地帯』

 本書は、科研課題「対馬暖流ベルト地帯周辺における縄文農耕の実証化に向けた関連石器類の広域基盤研究」(19K1097基盤研究C)にかかる、成果学術書の第二弾(以下、成果学術書Ⅱ)です(図1:2023年8月31日刊行、単著、並製装(アートポスト)A4判無線綴じ、全192頁/うち本文189頁)。
 わが国における初期農耕導入期の実態解明を前提に、関連学史の整理と、分類基準の設定を行ったうえで、2019年度より4年以上の歳月を費やして作成した縄文時代前半期(縄文早期~中期後葉)の農耕関連具類、その他に関する実測図の数々を掲載しています(図2)。
 本書は全5部、合計31の章で構成されています。
 第Ⅰ部では本研究課題の目的と学史的背景、ならびに、筆者のこれまでの研究経過を纏めました。
 第Ⅱ部では、日本列島および隣接する韓半島を対象として、初期農耕関連具類の出現期に焦点を絞った2022年までの研究学史を整理し、課題点を抽出しています。
 第Ⅲ部では同関連石器群に対する時間軸の縦断、及び広域空間の横断が可能な詳細分類基準を設定しました。
 第Ⅳ部は、当該研究課題の主翼部分です。科研採択初年(2019年)度以降、筆者が蓄積してきた関連実測図類のうち、本書(成果学術書Ⅱ)では縄文前半期の諸例、未公開資料を含む合計507点を一挙紹介しています。
 第Ⅴ部では、本書の主要テーマである縄文中期後葉以前における初期農耕関連具類の分布と出現傾向、ならびに器種組成等に関して、現時点における一連の成果を総括しました。

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 今回の主要成果は、次に記す9点です。① わが国における石製土掘具の登場が縄文早期後半にまで遡ること、② その起源地も従来の定説とは逆の西日本側に存すること、③ 中部・関東で縄文前期後半以降に盛行する石製土掘具は大半が有柄掘棒であり、学史通り、野生根栽類の集中採取が主目的であったと想定されること、④ 対する日本海西部沿岸の対馬暖流ベルト地帯側には少数ながらも多様な石製土掘具が存在したこと、⑤ 以上の石製土掘具の出現経緯として大陸(特に韓半島)側からの影響が看過できないこと、⑥ マイクロ土掘具(木製掘棒の石製刃先)の新発見、⑦ 列島内での大陸系石刀の初認識、⑧ 各地に潜在していた磨盤状石皿と磨棒状磨石の抽出、⑨ 鹿角斧の製作工程復元、です。
 本書の発刊により、わが国における先史時代の初期農耕(原初農耕)導入期をめぐる諸研究への、幅広い学術貢献が期待できるでしょう。
 なお、今回は科研事業に伴う出版図書のため非売品ですが、関連する全国主要機関に無償配布しています。今後、多方面で活用頂けることを願ってやみません。

図1 表紙と、はじめに

図2 公開図版の一例(鳥浜貝塚出土:当該HPへの福井県立若狭歴史博物館掲載許可済み)

 

※幸泉教員のその他の研究業績についてはresearchmapをご参照ください。
https://researchmap.jp/0884229115mz