胡光『四国へんろ考―四国の歴史と文化』
2014年は四国四県で、四国遍路開創1200年記念事業が開催され、2015年は四国遍路が「日本遺産」に認定されるなど、四国遍路を世界遺産にという気運が高まっています。愛媛大学でも2015年4月に「法文学部附属 四国遍路・世界の巡礼研究センター」が開設され、四国はもとより全国でも唯一の巡礼研究センターとして、学術面から世界遺産化活動を支援することになりました。2019年に、全学センターとなり、翌年には四国四県を中心とする「世界遺産登録推進協議会普遍的価値の証明部会」と協力協定を結び、地域連携の強化を図っています。
このような折にセンター長を務める筆者へ、朝日新聞社から「しこく遍路考」の連載依頼があり、2021年4月から同紙四国四県版において月一回の連載を続けています。連載にあたっては、最新の研究成果と最新情報を分かりやすく表現することに努めました。そして、2025年12月の55回の連載を機に、書名を『四国へんろ考』と改め、一書としてまとめ、創風社出版から新書「風ブックスシリーズ」№23として刊行しました。まとめるにあたり、全55話を以下の四章に構成し、時代順・テーマ別に再編集しました。
第一章 遍路のまなざし
第二章 霊場研究最前線
第三章 世界遺産に向けて―日本の巡礼と世界の巡礼
第四章 研究の新視点―普遍的価値の証明へ
世界遺産に推薦されるためには、まず「暫定リスト(暫定一覧表)」に記載され、ユネスコに提出される必要があります。2024年4月23日に行われた文化庁文化審議会で、「暫定リスト」を検討する世界文化遺産部会ワーキンググループが設置される、新たな動きがあり、「四国遍路」の「暫定リスト」入りが期待されています。世界遺産化の条件には、「資産の文化財指定」と「普遍的価値の証明」があげられます。文化財指定のためには、霊場と遍路道の調査が、普遍的価値の証明には、四国遍路の特徴を日本や世界の巡礼と比較して明らかにする必要があります。これらの作業は、本センターの設立目的とも合致し、四国遍路の世界遺産化に向けて、学術面からの支援が求められています。
四国遍路の大きな特色とは、「円環型巡礼」「大師信仰」「お接待など庶民文化」をあげることができます。宗派を超えて、弘法大師を信仰しながら、八十八ヶ所霊場を廻り、地域の人々も「お遍路さん」を大師とみなして、もてなします。このような四国の文化に触れた人々は、四国遍路を「お四国」と呼び、何度も廻る人もあります。
過去の記録や伝承には、不治の病や怪我が遍路の途中で治ったという話がたくさん伝わっています。彼らが奉納した絵馬などには、奇跡への驚きと「お大師様」への感謝が綴られています。現代のお遍路さんにアンケート調査をすると、先祖供養や自分探しなど多様な目的が見られますが、一様に四国に「癒し」を求めていることが分かります。現在、阿波・土佐・伊予・讃岐の四カ国は、仏教における「発心」「修行」「菩提」「涅槃」の道場に例えられるように、一人であっても弘法大師とともにある「同行二人」の精神で、幾多の困難を乗り越え、結願後には大いなる達成感を得て、「再生」してふるさとに戻るのです。その背景には、四国の自然や文化というものが深く関わっていると考えています。
近年、歩き遍路を行う外国人の姿をよく見かけるようになりました。2015年1月のNEW YORK TIMESでは、世界の訪れるべき場所として、日本で唯一「四国遍路(四国)」が選ばれました。「ロストジャパン」古き良き日本がそこにはあると思われています。1200年もの間、四国遍路は変容しながらも、人々を四国へと誘ってきたのです。
本書では、四国遍路の歴史についての最新研究や、世界遺産化活動の最新情報を紹介するとともに、四国の歴史や文化、そして四国の魅力についても考えています。
*本書の研究は、JSPS科研費20H01309・23K20107の助成を受けたものです。
*本書の刊行は、愛媛大学基金のうち四国遍路研究基金を活用しています。
*最新の研究では、修行から巡礼の旅へと歴史的変遷を経るなかで、四国遍路の表記が「■(鳥にしんにょう)路」「邊路」「徧禮」「遍路」のように変化することが明らかとなってきています。本書では、「辺路」「遍礼」「遍路」に統一し、分かりやすい表現を試みました。本書の書名で用いた『四国へんろ考』は、遍路表記の変遷を網羅的に表現するため、平仮名で表記しています。
※胡教員のその他の研究業績についてはresearchmapをご参照ください。
https://researchmap.jp/7000014856

