55th International Conference on Sino-Tibetan Languages and Linguistics (ICSTLL-55)での基調講演(秋谷裕幸)
55th International Conference on Sino-Tibetan Languages and Linguistics (ICSTLL-55)が2022年9月15日から18日まで京都大学で対面・遠隔のハイブリッド形式により開催され、私は16日の基調講演を担当しました。
講演題目は「原始閩語的形成年代(閩祖語の成立年代)」で、比較方法により理論的に構築される閩祖語が現実に存在する言語であったと仮定した上で、「どれ」「あれ」「あなた」「彼・彼女」「どのくらい」「人」を意味する単語の歴史を詳細に分析しました。これらの単語はいずれも東部閩語と西部閩語で異なる語形が用いられます。例えば「どのくらい」には東部で“若夥”、西部で“幾多”が使われます。講演では、西部閩語で使われる語形が外部からの借用語であると論じました。そして東部閩語の語形“底(どれ)”“許(あれ)”“汝(あなた)”“若(どのくらい)”“農(人)”が文献上で南朝期に初めて出現することから、閩語の成立年代を閩祖語の成立年代を5世紀から6世紀あたりと推定しました。閩語における東西対立については、その成因を福建省への移民流入経路の違いに求める考えがあり、それを十分には否定することができなかった点が惜しまれます。
基調講演を行ったのは私以外にJames A. Matisoff教授(University of California, Berkeley)、黄成龍研究員(中国社会科学院)、William H. Baxter教授(University of Michigan)ら計6名でした。