高橋勇介「労働市場における正規雇用への移行とその背景―初職と転職経路に着目して―」

本研究の目的は、非正規雇用で働く労働者が正規雇用に転職、昇進するにあたり、どのような要因やサポートが有効か、理論的に検証することである。特に、日本の非正規雇用をめぐる研究の中で、大きなテーマとなってきたのが、非正規雇用から正規雇用への移行について、すなわち、非正規雇用は「行き止まり」か、「正規雇用への架け橋」かどうかといった問題である。日本においては、不況時における非正規雇用の雇用の不安定さが問題となっており、非正規雇用に対するセーフティネットの見直しや、労働契約法改正による「雇止め法理」の法定化、無期労働契約への転換と不合理な労働条件の禁止といったルールが定められた。

本研究では、『全国就業実態パネル調査』(リクルートワークス研究所)の個票データを用いて、非正規雇用から正規雇用への移行にどのような要因が働いているか検証し、労働者の個人的もしくは経済的な属性に加えて、転職の経路や初職の雇用形態にも着目した。本研究は、査読誌である日本経済政策学会『経済政策ジャーナル』第19巻第1号(2022年8月)に「労働市場における正規雇用への移行とその背景―初職と転職経路に着目して―」と題し掲載された。『経済政策ジャーナル』には過去にも2本、非正規雇用に関する論文が掲載されたが、これらをさらに発展させた内容となっている。主な結論としては、初職が正規雇用であった非正規雇用は、正規雇用に移りやすい、ハローワークの利用が女性の正規雇用への移行を促進している、医療関係の業種や中小企業において、正規雇用への移行が起こりやすい点が挙げられる。日本の労働市場の現状を鑑みると、「多様な正社員」を採用する企業も増加傾向にあり、このような労働市場政策によるサポートも有効な策といえよう。また、雇用保険による所得保障に加えて、手厚い就職支援の構築も求められ、非正規雇用への細かな職業紹介や職業訓練も含めて、ハローワークの役割は大きくなっているといえる。今後も、査読誌掲載を目指し、パネルデータを用いた分析を進めていくつもりである。