不破 茂「ノルド・ストリーム2と法―EUエネルギー市場法と米国二次的制裁法」

不破 茂「ノルド・ストリーム2と法―EUエネルギー市場法と米国二次的制裁法」(『国際取引法学会年報』8号掲載予定)

ロシアのウクライナ侵攻に伴い日本を含めた国際社会、特に米国及び欧州の経済制裁が話題になっています。ノルド・ストリーム2(NS2)というのは、ドイツとロシアを結ぶ天然ガスパイプラインのことです。ドイツはエネルギー供給の過半をロシアからの輸入に依存しています。ドイツのみならず、欧州全体でもそう言えます。ロシアは資源輸出国として、外貨収入の大部分をこれに頼っており、NS2は極めて重要な国家的プロジェクトでした。米国は経済制裁によって、NS2の稼働を阻止したのです。欧州、特にドイツに対するロシアの影響力を心配し、欧州全体のエネルギー安全保障を理由としています。投資をしたロシアと欧州企業の巨額の損失にも関わらず、完成したパイプラインが運用されません。ウクライナ侵攻後、米国の経済制裁が強化され、NS2の運営会社が遂に倒産に追い込まれました。

NS1はEU加盟国数カ国のEEZを通過しバルト海に敷設された。
(画像引用元:https://creativecommons.org/licenses/by/3.0/deed.ja )

NS2(画像引用元:ノードストリーム2運営会社)

本稿は、NS2の建設および稼働を阻止する米国の制裁法と、NS2の運用を前提とした欧州のガス市場の法規制を研究しています。米国の領域外における外国企業同士の取引を規制する米国の二次的制裁は極めて有効で、米国が、経済制裁の効力を全世界に及ぼそうとします。他方で、欧州の市場規制はNS2を狙い撃ちし、欧州の市場のルールをロシア側に押しつけるものです。ロシアはWTOやEUの国際裁判所に提訴し、この規制の適用を免れようとしました。国際的フォーラムにおける熾烈な攻防があったのです。但し、米国と欧州ではNS2に対する態度が異なり、欧州はその市場規制を適用しながらも基本的にNS2を稼働、運営させる方向性にありました。米国も一旦はこれを容認していたのです。このような米国二次的制裁法とEU市場規制の詳細、および国際的フォーラムにおけるEUとロシアの攻防について論じています。

国際取引法学会は、研究者・企業法務・法曹の三者の協働により、先端的法領域である国際取引法学を発展させるべく設立されました。学会および研究会も活発に開催されており、それらの報告を中心として、毎年1回、年報が刊行されています。