兼子 純「地方活性化に向けた韓国地方都市の時空間ダイナミズムに関する研究」(基盤研究(B)、研究代表者、2022~2025年度)

近年,多くの先進諸国において人口減少や脱工業化が進み,都市の縮小がみられます。都市の縮小は,経済活動の低下,貧困へと結びつく可能性がありますが,逆にこれまでの経済成長・拡大路線を転換させ,豊かな社会・生活を実現させる「スマートシュリンク」という発想も注目されます。本研究の目的は,韓国の地方都市が,少子高齢化・人口減少の進行にもかかわらずスマートシュリンクを実現させつつあることに注目し,これら地方都市でみられる地方活性化に向けた時空間ダイナミズムを解明することにあります。時空間ダイナミズムとは,時間とともに変化していく地方都市の空間構造にみられる自発的活力を想定したものであり,これらを多角的な空間スケールと分析手法から明らかにしていきます。

世界的にみても首都への一極集中の著しい韓国では,少子化の進展も著しく,今後,高齢化の進行と人口減少が予測されています。各国において,経済成長の停滞期における首都圏への資本や人口の吸引は,結果として首都圏以外の地方都市の衰退を意味するものです。地方創生が叫ばれる昨今,質的に競争力が高く,拠点となる地方都市をつくり上げていくためには,地方都市自体を分析対象とした研究を蓄積していくことが緊急の課題となりうると考えられます。

上記の問題意識のもとに研究代表者らは,日韓の地方都市の共通点と相違点を視野に入れながら,韓国の地方都市の都市再生と,その背景となる都市構造に関する調査を実施してきました。そしてこれまでの調査から,日本の地方都市にみられるような「シャッター商店街」のような現象は韓国では起こりにくく,店舗の激しい入れ替わりによって,市街地の活況や構造は縮小しつつも維持されていることを明らかにしました。人口減少に伴い空間的にも縮小していくであろう韓国の地方都市が,その過程でいかに自発的活力を持って活況を維持できるのかについての示唆が,日韓の比較などによって見出されうると予想しています。

本研究課題では,まず,全国スケールおよび都市圏スケールでの分析において,韓国の研究機関との共同研究により,統計データやLandsat等の衛星画像データを用いて,地方都市の類型化および市街地全体の空間的範囲の変化を地理情報システム(GIS)により定量的に把握します。こうした定量的分析を踏まえて選定された地方都市に対して,さらに都市内部の時空間構造についてフィールドワークによってミクロスケールでの土地利用の変化も調査・分析することで,その実態把握と質的な変化を明らかにする計画です。最終的には,そこで得られた都市構造に関する知見を,「地理学」および「アジア」から発信することを企図しています。

忠清南道扶余郡中心部の土地利用調査結果

全羅北道南原市の中心商業地区