高橋勇介「日本におけるふるさと納税の実態について―返礼品の問題について―」(韓国地方財政学会での招待報告)

 2022年12月16日に韓国のソウルで開催された韓国地方財政学会冬季学術大会での韓日地方財政セミナーでは、ふるさと納税がテーマとなり、報告を依頼された。本報告は、日本におけるふるさと納税の返礼率の決定要因を、マクロデータを用いて検証したものである。以下報告の内容を紹介したい。
 ふるさと納税は、地方財政における税収の拡大やその使途について、肯定的な見方がある一方で、地方税の原則である応益原則などとの整合性や、過剰な返礼品競争が問題となってきた。これまでのふるさと納税に対する研究に目を向けると、その多くがふるさと納税の実態や使途について調査を通じ明らかにしたもの、主に返礼品に着目し、どのような要因がふるさと納税を行うインセンティブとなっているのか、実証分析によって明らかしたものである。ただし、返礼品について、自治体の返礼率を決める諸要因について分析を行った研究は多いとは言えない。返礼率の決定要因には、財政力が弱い地方自治体が、ふるさと納税による寄附金の獲得で税収を拡大させる狙いや、他の自治体にふるさと納税が行われることで税額控除などによる税源の流出を防ぐといった意図が考えられる。このような観点から見れば、ふるさと納税の返礼品競争は、自治体間の政策競争によって形成される可能性もある。
 ふるさと納税が地方財政にとっての一助となり、税収が地域の活性化や福祉などに用いられるのならば、寄附金型の税制として一定の意義があるが、過剰な返礼品競争の要因となるならば、地方税の原則との整合性など問題があるといえる。一方で、返礼率が、自地域の財政や経済、産業などの要因で決まっている可能性もあり、本研究では、返礼品率の決定要因について、競争関係にあると考えられる自治体の返礼率や自地域の人口や産業、財政の状況に関する諸要因を考慮したうえで、地方税法の改正が行われた2019年度のクロスセクションデータを用いて分析した。
 報告の主な結論は以下のとおりである。2019年度のクロスセクションデータからは、財政力が弱い地方自治体が、ふるさと納税による寄附金の獲得で税収を拡大させる狙いや、他の自治体にふるさと納税が行われることで税額控除などによる税源の流出を防ぐといった意図で、返礼率を上げるといった現象は確認できなかった。また、頑健性の確認のため、2016年度から2019年度のパネルデータを用いた推定も行ったが、ほぼ同様の結果となった。2017年に総務省が返礼率を3割以下にするよう地方自治体に通告したことも影響していると考えられる。さらに、実質債務比率が高い地域ほど、返礼率が高くなる傾向みられたが、一次産業人口比率や財政力指数が高い自治体ほど、返礼率が高い傾向にあり、財政力指数が高い自治体ほど、返礼品にかける費用が高くなる可能性がある。一方で、65歳以上の人口割合が正の影響を与えておらず、高齢化が進み、財政状況が悪い自治体ほど必ずしも返礼率を引き上げているわけではないと解釈できる。
 上記の結論は、ふるさと納税の返礼品競争は、自治体間の政策競争によって形成されるという、先行研究の結果とは異なるものとなった。地方税法改正などにより、返礼品競争が抑制された可能性もあるが、一方で、返礼品目当てではない利他的な動機からふるさと納税を利用しているケースも多い可能性があり、ふるさと納税自体が逼迫する地方財政の一助となるのであれば、新しい地方税の在り方として再評価できると考えられる。
 韓国においてもふるさと納税の導入が検討されており、本報告について、朱晩洙氏(漢陽大学)、崔源九氏(韓国地方税研究院)、申斗燮氏(韓国地方行政研究院)から貴重なコメントを頂いた。モデルに関するコメントをはじめ、地方税法改正後の2019年以降の現状、返礼品の種類がふるさと納税の税収に与える影響、先行研究と本研究との大きな違いに関心が寄せられた。ZOOMを通したオンラインでの報告ではあったが、活発な議論が交わされ大変貴重な機会となった。

 

ふるさと納税の住民税控除額と控除適用者数

出所 総務省「ふるさと納税に関する現況調査結果」をもとに筆者作成