福井秀樹 ” Estimating tactical surface metering management’s effect on aircraft fuel savings at airport.”

[Open Access] Fukui, H., and Miyoshi, C. (2024). Estimating tactical surface metering management’s effect on aircraft fuel savings at airport. Research in Transportation Economics, 103, 101405.
https://doi.org/10.1016/j.retrec.2023.101405

 本稿は、アメリカ航空宇宙局(以下、NASA)とアメリカ連邦航空局(以下、F AA)がシャーロット・ダグラス国際空港(以下、シャーロット空港)に導入した空港面における航空機の地上走行を計測管理する新技術が、航空機の地上走行における燃料消費とCO2排出削減に及ぼす効果を推定したものです。
 航空機の燃料消費は大部分、飛行中に発生します。しかし、航空機が地上走行している時間が長ければ長いほど、消費燃料は多くなります。そして、よりクリーンなエネルギー(例えば水素)を燃料とする航空機は、いまだ開発途上です。このような状況では、航空機の地上走行管理も、燃料消費とCO2排出の削減につながる現実的で重要な政策選択肢なのです。ロケットサイエンスで有名なあのNASAも、小さなことからコツコツと、実践しているわけですね。
 さて、このコツコツ実践の効果、簡単に測定できるのでしょうか。簡単であれば、苦労して学術論文に仕上げる必要はないですよね。そうです。これはかなりむずかしい。
 なぜむずかしいのか。それは、シャーロット空港が、新技術の適用を受けると同時にその適用を受けないことは不可能なためです。新技術の効果を測定するには、新技術の適用によりシャーロット空港に起こった「結果1」と新技術の適用なしにシャーロット空港に起こった「結果2」とを比較しなければなりません。しかし、結果は1か2のどちらか一方しか得られないのです!
 そこで、因果効果の推定には、「反事実の結果」が必要となります。反事実の結果とは、カギとなる条件(ここでは「新技術」適用)が違っていたら起きたであろう帰結です。幸い、アメリカという国は航空関係の膨大な観察データを収集し公開しています(日本もそうして欲しい!)。今回の研究では、この観察データを用いて「比較群」を作成し「反事実の結果」を得ることとしました。シャーロット空港で新技術が適用される以前の期間において、観察される様々な指標がシャーロット空港と似ている空港を、平行的な傾向の有無の統計的検定や傾向スコア・マッチング等により選び出し「構成」したのです。
 もちろんこの手法では、観察されない指標をシャーロット空港と比較群とでバランスさせることはできません。その点、ランダム化比較試験に劣ります。しかし、観察データしか用いることができない場合、上記のような手法を駆使して、因果効果を推定するわけです。
 さて、その結果はどのようなものだったでしょうか。2015年11月から2019年11月までのパネル・データを用いた私たちの推定は、例えば、エンジン1機による地上走行率が75%と高い場合でも、1フライトあたり39.156kg(95%信頼区間64.017 – 13.436 kg)の燃料と120.599kg(95%信頼区間197.174 – 41.382kg)のCO2を節約できることを示唆しています。これは、1フライトあたり3.3kgの燃料と10.16kgのCO2が節約されたとするNASAとFAAの推計よりかなり大きな数値です(FAA, 2021)。この違いは、NASAがシャーロット空港における新技術導入前後の諸指標の差のみに基づき計算を行ったのに対し(NASA, 2020)、私たちは比較群との差を推定したことによるところが大きいと思われます。比較群を用いる場合、比較群の燃料消費効率が悪いほど、シャーロット空港における燃料消費削減効果が大きく推定されるわけです。
 NASAの推計と私たちの推定にはこのような違いがありますが、いずれも「小さなことからコツコツと」に大きな意味があることを示唆しています。いやぁ、コツコツやるって本当にいいものですね。それではまた次の論文でお目にかかりましょう!

参考文献
Federal Aviation Administration (FAA). 2021. New Software Capability Gets Planes Rolling Directly to the Runway, Reducing Fuel Burn & Taxi Time. FAA website.
https://www.faa.gov/newsroom/new-software-capability-gets-planes-rolling-directly-runway-reducing-fuel-burn-taxi-time(閲覧2024年2月28日)
National Aeronautics and Space Administration (NASA) ATD-2 team. 2020. ATD-2 Benefits Mechanism. NASA.
https://aviationsystems.arc.nasa.gov/publications/atd2/tech-transfers/4_Evaluation_Results/4.10%20ATD2_Benefits_Mechanism_v1_20200527.pdf(閲覧2024年2月28日)

出典:NASA, What is the Airspace Technology Demonstration 2?

https://www.nasa.gov/centers-and-facilities/ames/what-is-the-airspace-technology-demonstration-2/

(閲覧2024年2月28日)

※福井教員のその他の研究業績についてはresearchmapをご参照ください。
https://researchmap.jp/read0064481