朝井志歩「軍事化が島嶼に及ぼす影響の比較研究-琉球弧、グアム、マーシャル諸島」(研究代表者)

本研究の目的は、島嶼において進行している軍事化の実態を実証研究に基づいて明らかにし、島嶼に軍事基地を立地させる社会構造を分析し、軍事化が地域住民の生活や地域社会のあり方、社会全体に及ぼす影響などについて、幅広い視点から考察することである。

本研究は、研究代表者と研究分担者ら総勢7名による共同研究である。鹿児島県馬毛島での米軍FCLP施設と自衛隊基地建設、沖縄県名護市辺野古での普天間基地代替施設建設、グアム島での米軍基地と先住民族問題、マーシャル諸島での核実験被害と移住問題などについて、各フィールドで調査を行い、年に2回研究会を開催し、各自の調査で得られた研究成果を持ち寄って議論を重ねることで、各地域の「軍事化」をめぐるダイナミズムを解明し、問題の被害構造を把握している。

本研究の研究代表者らは、環境社会学の分野において、軍事基地によってもたらされる環境被害に関する研究が少ないことに着目し、2009年7月に「軍事・環境・被害研究会」を立ち上げた。そして、2013年度から2015年度にかけて、共同研究として科学研究費補助金の基盤研究C「軍事が地域社会に及ぼす影響に関する総合的研究」を獲得した。その後、国際社会論、歴史社会学を専門とする新たなメンバーを迎え、2016年度から2019年度に基盤研究B「軍事被害を不可視化させる社会構造に関する総合的研究 -沖縄、 本土、太平洋諸島」を獲得した。2020年度からは、本研究である基盤研究B「軍事化が島嶼に及ぼす影響 の比較研究 -琉球弧、グアム、マーシャル諸島」を獲得し、研究会として共同研究を継続している。

本研究は学際的な研究であり、社会学だけでなく、国際関係論や平和学、ジェンダー研究など幅広い視点から、軍事被害を生み出す国家による加害構造を明らかにしようとしている。また、「受苦圏」とされてきた地域の連帯に着目することで、問題解決へ向けた、「加害-被害」構造を超えるオルタナティブな論理を追求し、提示していくことを目指している。

これまで、研究代表者と研究分担者らは、研究会として共同での研究発表をしてきた。2019年度に研究代表者と研究分担者3名が『環境社会学研究』第25号の特集「環境社会学からの軍事問題研究への接近」で、各自のフィールド調査に基づいた論文を発表した。また、2020年2月に東京の明治学院大学で公開シンポジウム「軍事化が進む社会」を企画し、研究代表者、研究分担者らが、これまでの研究成果を報告した。また、2023年6月に戦争社会学研究会(編)の『戦争社会学研究 Vol.7 基地とウクライナと私たち』(みずき書林)が刊行され、特集論文である「軍事と環境」に研究代表者と研究分担者4名の総勢5名の論文が掲載された。これは、2022年4月の第13回戦争社会学研究会研究大会でのテーマセッション「軍事と環境」が、戦争社会学研究会と本研究会との共催で行われ、研究代表者と研究分担者が報告者となったことをきっかけに企画が立てられたという経緯がある。さらに、2024年6月の第69回環境社会学会大会では、「地域社会における軍事化の浸透と抗いの可能性」という企画セッションを開催し、研究代表者と研究分担者らが報告をした。2024年11月の第70回環境社会学会大会においては、シンポジウム「環境社会学から問う島嶼の軍事化」を企画し、沖縄、グアム、マーシャル諸島をつなげることで、軍事化が進む地域社会の実態と、軍事化に抗う住民たちの実践や連帯について報告した。

これらの共同で行った研究成果発表のみならず、各自が著書や学術雑誌等でも研究成果を発表している。研究代表者である朝井は、『社会運動の現在 市民社会の力』(長谷川公一(編),有斐閣,2020年)で「第7章 米軍基地をめぐる運動」を発表し、『環境問題の社会学』(茅 野恒秀・湯浅陽一(編著),東信堂,2020年)では「第6章 環境制御システムと軍事システム」を発表した。

本研究は2020年度から始まったが、新型コロナウイルスの感染拡大により、国内・国外でのフィールド調査の実施が困難になった。特に国外での調査は、計画していた調査の実施が延期されたことにより、当初の研究計画の実施が遅れたため、最終年度を一年延長した。そのため、2024年度が最終年度となり、現在、研究成果をとりまとめている。

シンポジウムの写真1

シンポジウムの写真2

※朝井教員のその他の研究業績についてはresearchmapをご参照ください。
https://researchmap.jp/7000014884