三上了「Hands-offアプローチが開発援助成果の持続性に与える影響の経験的検証」(基盤研究(C)、研究代表者、2024~2026年度)

開発援助には持続性という積年の課題があります。ここで言う「持続性」とは、援助で与えられた技術・知識・インフラなどが、援助する側の手を離れた後、援助された側の下で活用され続けることです。もちろん、援助する側が関与をし続ければ持続性は保証されますが、それは同時に援助依存を意味します。援助された側が自律的に活用し続けてくれなければ援助効果は累積せず、南北格差の解消は永遠に望めません。

この問題への解決には、従来のHands-onアプローチからHands-offアプローチへの転換がカギとなるかもしれません。「Hands-onアプローチ」とは、課題の設定からその解決方法まで援助する側が手取り足取りきめ細かな指導をする従来型の援助スタイルです。これに対して「Hands-offアプローチ」とは、成果連動型の援助であり、援助する側は課題だけ設定して、その課題解決方法は援助される(報酬を与えられる)側に任せる比較的新しい援助スタイルです。なお課題のクリアが報酬支払の基準となりますので、公平な判定のためには、課題達成状況を示す客観的情報が両者で共有されることになります。

当研究ではこのHands-offアプローチが援助成果持続性を高める可能性を、ミクロレベルで検証するため、「家庭内での水の安全な処置と貯蔵」支援を題材として、ウガンダのWakiso県北部のMasulitaでフィールド実験を行っています。日本と違って途上国の農村部では水道管網が整備されていませんので、家庭で使用する水は家から離れた給水施設から運び、貯蔵する必要があります。その運搬と貯蔵によく使われるのがジェリカンと呼ばれるプラスチック製の容器です。これを清潔に保つ支援を題材としました。今回は2025年9月から10月にかけて行われた介入の報告です。

図 1 フィールと実験が行われているウガンダのMasulitaとジェリカンを運ぶ男性

上述の通り、Hands-offアプローチには、「課題解決方法を援助される側に任せる」という点と、「課題達成状況を示す客観的情報を両者で共有する」という点がありますので、それぞれの効果を区別するため、実験エリアから無作為抽出した実験対象192世帯を以下の4群に無作為割付しました。一つはジェリカンを何らかの方法で清潔にすれば現金を給付するという形で支援するHands-off群、二番目は日本でよく掃除に使われる重曹をプレゼントし、重曹でのジェリカンの洗浄方法を指導するという形で支援するHands-on群、三つ目はジェリカン内部の状況を小型カメラで見せるだけで特段の支援はしない「情報共有」群、四つ目はジェリカン内部の状況を小型カメラで記録するだけ(援助される側には見せない)で特段の支援はしない制御群です。

表1 四群の共通点と差異

下の画像は、各世帯三つのジェリカンの内部画像を、スクリーニング時(内部画像はどの群とも共有せず)、介入開始時、介入終了時に、左から並べたものです。ジェリカンの内部を検査されること自体が(おそらく羞恥心から)ジェリカンの洗浄を促す効果を持ったため、介入方法の違いに関わらず、全体的にジェリカン内部がきれいになっていく様子が伺えますが、介入開始時から終了時にかけてジェリカン内部が改善された件数を得点化してその平均値を比較すると、Hands-off群が制御群やHands-on群より統計的に有意に高いという結果になりました。情報共有群との差は有意ではありませんでした。

図 2 ジェリカン内部の画像 (左:スクリーニング時、中央:介入開始時、右:介入終了時)

図 3 介入開始から終了までのジェリカンの改善度の群別平均値(Xは観測値)

このように、早くも介入時の効果においてHands-offアプローチの優位性が確認されましたが、問題はこの後です。今回の介入によって(制御群を含めて)総じて高められたジェリカンの清潔度がどのように低下していくのか、そして清潔度の持続性においてもHands-offアプローチがHands-onアプローチを上回るのか、この点をこれから半年後(2026年2月)と一年後(2026年9月)にフォローアップ調査を行って検証していきます。

※この研究は公益財団法人 三菱財団の2025年度研究助成も受けています。

 

※三上教員のその他の研究業績についてはresearchmapをご参照ください。

https://researchmap.jp/read0129666