池田文「利益誘導政治——利益誘導のかたちは変わったか?」

池田文「第4章 利益誘導政治——利益誘導のかたちは変わったか?」
『数理とデータで読み解く日本政治』浅古泰史, 善教将大(編著)日本評論社
(2025年9月出版, ISBN 978-4-535-54083-5)

政治学の研究領域や手法は多岐に渡ります。その中でも近年、最も研究手法の進化が目覚ましいのが実証政治学と呼ばれるデータや計量分析を用いた領域です。本書は、データや数理という分析手法を用いて日本政治を読み解くという目的で執筆されました。また日本政治を考える上で、選挙や議会といった制度に加え、経済政策も切り離すことが出来ないということから、政治学者と経済学者の両方が執筆に参加しました。政治学と経済学の垣根を超えた書籍は、これまでに前例のないものです。政治学者と経済学者の協力のもと、選挙制度や投票参加など政治学的なテーマから、財政赤字、社会保障、中央銀行などの経済学的なテーマまで、多岐に渡る重要テーマが扱われています。

この書籍で、私は「利益誘導政治-利益誘導のかたちは変わったか?」という論文を執筆し、第4章に掲載されました。利益誘導政治とは、特定の団体や有権者に優先的に利益を誘導することで、その見返りとして選挙で票を投じてもらい集票する政治の在り方を指します。日本は利益誘導政治と親和性が高く、特に、自民党の長期政権の一因が利益誘導政治にあるとされます。私の担当した第4章では、利益誘導政治が生じるメカニズムとして、衆議院選挙および衆議院選挙で日本が採用している選挙制度の要因が大きいことを議論しています。また、日本の利益誘導政治の形がどのように変わったのかという点について、1994年の衆議院制度改革前の中選挙区制の時代と、選挙制度改革後の小選挙区比例代表制の時代を比較、検討しています。それに加え、これまでの利益誘導政治の研究では衆議院選挙が主な分析対象となっていましたが、実は、参議院選挙の全国比例が利益団体の組織内候補の擁立につながっており、利益団体への利益誘導と関連するのではないかという点を問題提起し、データを用いて分析しました。

今年度は法文学部戦略経費を頂いて、日本酒産業への法規制と保護政策による利益誘導の在り方を検討しています。今後もデータ分析による利益誘導政治の研究を継続し、日本政治のメカニズムの解明に貢献していきたいと考えています。

※池田教員のその他の研究業績についてはresearchmapをご参照ください。

https://researchmap.jp/fumi.ikeda