教員からのメッセージ
高校生の皆さんは、「法学(法律学)」と言われても〝ピン″とこない人の方が多いかもしれません。条文の暗記が大変そうだな、というイメージがあるかもしれませんが、法学は、条文の丸暗記をする学問ではありません。私は法学の中でも刑法を研究していますが、ここでは、刑法という学問が何を考える学問なのか(大学では、考え方を学ぶとともに、どう解決するかを「自分で」考えなければいけません)、具体的な例(具体的事実の錯誤)を使ってみていきましょう。刑法には、故意犯(こいはん)と過失犯(かしつはん)という概念があります。とりあえず、故意は、「わざと」結果を発生させた、過失は、「うっかり」結果を発生させてしまった、くらいに考えてください。さて、「甲が、Aを殺害するつもりでけん銃を発射したが、その弾丸がAの身体を貫通してAを殺害するとともに、Aの背後にいて甲からは認識できなかったBをも殺害してしまった場合」について考えてみましょう。
甲の行為が、Aについては「わざと」であることに問題はなさそうです。では、Bについてはどうでしょうか。
① 甲は、Bの存在を認識できていないのだから、「わざと」殺したのではなく、「うっかり」死なせてしまったと考える。
② 殺人罪の場合「およそ人を殺すな」という規範を有しているのであり、甲は「人を殺すつもりで」、「人を殺した」と考える。すなわち、A・B両名を「わざと」殺したと考える(最判昭和53・7・28刑集32巻5号1068頁)。
さて、皆さんは①と②のどちらがより妥当だと考えるでしょうか。そして、それは「なぜ」でしょうか。この「なぜ」まで答えられることが重要です。そして、そのヒントは、刑法の授業にあるのです。愛媛大学の教室で、皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。